被爆者の願いは謝罪ではなく核廃絶~長崎から見るオバマ広島訪問
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あす27日に広島を訪問するオバマ米大統領が、原爆投下を謝罪するかどうかが注目を集めている。米国では原爆が戦争を終わらせたとの認識が定着しており、謝罪を絶対に認めない意見が大半だ。肝心の被爆者はどうなのか。共同通信が広島と長崎の被爆者115人にオバマ大統領の謝罪を求めるかどうかについてアンケートを実施したところ、78%が「求めない」と回答している。ある新聞のコラムには、長年広島原爆を取材してきた記者が「感覚的に95%の被爆者は謝罪を求めていないと思う」と発言したことが紹介されていた。なぜ、被爆者は原爆を落とした米国の大統領に謝罪を求めないのか。
私は被爆三世として長崎市で生まれ育ち、祖父をはじめ多くの被爆者から体験談を聞いてきた。もちろん原爆投下を許せないという思いは抱いている。それでも米国を非難するつもりはまったくないし、被爆者からそうした声を聞いた記憶もない。確かに原爆はたった一発で都市を壊滅させる人類史上最悪の兵器である。しかし、それも戦争があったからこそ使われたのだ。被爆者の多くにはそうした意識が定着している。2014年の長崎平和祈念式典で、被爆者代表の城臺美弥子氏が集団的自衛権の容認に反対の意を表したことが注目を集めた。私は城臺氏が語り部活動を始めて間もない頃に話を聞いたことがあるが、「なぜ戦争が起こったのか学ばなければならない。それを理解すれば戦争を防ぐことにつながり、再び原爆が落とされることもないだろう」と語ったのを印象深く覚えている。
問題は日本の側にある。原爆投下から70年以上が経ち、若い世代のなかには日本がかつて米国と戦争をしていたことを知らない人も増えているという。原爆についてはなおさらだ。そこには被爆者援護の枠が拡大することを恐れ、意図的に原爆の被害を小さく見せようとする政府の思惑も透けて見える。たとえば、被爆者援護法で被爆者として認定されるための前提に被爆地域がある。長崎市の場合、爆心地を中心に南北12キロ、東西7キロの楕円形の範囲だ。しかしこの設定は古くから批判されていた。長崎市北部にある式見地区で、小川を挟んで被爆地域と地域外に分けられているという馬鹿げた話を聞かされたことがある。地域内で被爆していれば法律により被爆者と認められ、地域外であれば被爆体験者とされてしまう。それぞれの援護内容は天と地といっていいほど差が大きい。現在、長崎原爆の被爆体験者らが被爆者健康手帳の交付を求めて国などを訴えているが、5月23日の第一陣控訴審判決で福岡高裁は原告の訴えを全面的に退けた。被爆者健康手帳を持っていれば医療費が原則無料になる。政府はこれ以上、被爆者にカネを出したくないのだ。
2014年、長崎を修学旅行で訪れた横浜市の中学生が被爆体験を語る被爆者に「死にぞこない」と暴言を言ったことが問題となった。中学校側は被爆者に謝罪したものの内輪だけで片付けようとしたためにかえって情報が洩れ、結果として全国から非難されることとなった。この問題は被爆者、というより年長者に対する敬意に著しく欠けた行為であるともいえ、学校や保護者の指導力が不足していたと指摘することもできる。しかし、原爆を理解し、被爆の惨状についてきちんと学んでいれば、少なくとも被爆者を侮辱する言葉が出てくることはあり得ない。戦後の平和教育は、学校や教育委員会の側があまり乗り気ではなく、むしろ教職員組合の方が熱心だった。それは学校には国の息がかかり、教職員組合のバックには左派勢力がついていたことが背景になっている。両者の不毛な対立によって子供たちに平和教育がねじ曲がって伝わったり、あるいは教育自体がないという事態が発生した。その果てが暴言騒動だったと言えるだろう。
もちろん、被爆者のなかには米国に対する憎しみを募らせていた人もいた。国連での「ノーモアヒバクシャ」演説で知られた山口仙二氏(故人)は1989年、長崎港に入港した米艦船の艦長が平和公園に献花した花輪を踏みにじった。その米艦に核兵器が搭載されている疑惑が持たれていたためだ。山口氏の行為は許されるものではないが、原爆で全身に火傷を負い後遺症に苦しみながら生きてこなければならかったその境遇からくる心情は理解できた。しかし時の流れはそうした怒りも和らげ、オバマ大統領のノーベル平和賞受賞の知らせを聞いた山口氏は、「アメリカも変わった」と態度を軟化させていたという。山口氏は2013年に亡くなったが、生きていればおそらくオバマ大統領の広島訪問を歓迎しただろう。もちろん謝罪があるに越したことはないが、それより被爆者にとって最も切実な願いは「核のない世界の実現」なのである。
【平古場 豪】
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