舛添都知事の「第三者調査」への疑問(後)
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不適切であるが違法性はない。第三者の弁護士が下した判断に対し、舛添要一東京都知事は、指摘された件については返金する意向を示した。この結論で納得できるはずがない。いくら反省の弁を述べたところで、そもそも「不適切な」支出をした理由の説明が説明になっていないからだ。たとえば漫画本「クレヨンしんちゃん 北与野博士編」やクイズ本「ひっかけクイズ最強イジワル王への挑戦」を購入した理由について、舛添氏は「児童の保護者から、子どもが悪い言葉遣いをまねたり、テレビのクイズ番組などを見て勉強しないので困るので、政治の力でなんとかなりませんかと陳情を受けた」ことから、実際にそうなのか確認するために購入したと説明している。弁護士は購入したのは福岡県内の書店で家族を同伴していたため、家族に買い与えたと見られてもやむを得ないとして、不適切とした。
しかし、舛添氏の発言には不穏当な内容が含まれている。政治の力で何とかならないか。これは検閲を求めており、憲法が保障する表現の自由を侵害するものである。舛添氏ならそのことにすぐ気づいたはずだ。不可能なことであることがわかっている以上、漫画やクイズ本を政治資金で購入することなどあり得ない。どうしても気になるならポケットマネーで買えばよく、読んだら子どもに与えるのもいいだろう。それ以前に児童の保護者から教育に不適当と名指しされた本を、自分の子どもに与える神経も理解できないところではあるが。
会見でやり玉に上がったのは時代小説やミステリー小説だったが、報告書に記載されている書籍のリストをみると、舛添氏の趣味性が浮かび上がってくる。もちろん多いのは政治経済や美術関係なのだが、歴史関係も目立つ。とくに幕末から明治、それから第二次世界大戦関係だ。もちろん政治家には歴史に精通していることも求められるだろう。それにしては時代があまりに偏り過ぎている。趣味を持つことは悪くない。しかし舛添氏はあまりにも趣味を仕事に持ち込みすぎる。たとえば、普通に仕事をしている人が気晴らしに趣味のものをパソコンの周りに飾ったりすることはあるだろう。当然それは自腹だ。しかし、舛添氏の場合は政治資金で購入した絵画や書を都庁に持ち込んでいる。インターネットのオークションで安かったから買いすぎてしまったことを舛添氏が認めていること自体噴飯物だが、保管場所に困って都庁で保管しているのではないかと疑われても仕方がない。絵画や書などの所有者は舛添氏ではなく、氏の資金管理団体である泰山会であるとの認識だが、それを示す書類などは見つかっておらず、実際は曖昧なまま。報告書も所有関係を明らかにするように求め、舛添氏も批判を招かないように適切な措置を取ると回答している。それならばまず、誰のものかわからないものはさっさと都庁から運び出すべきだろう。
舛添氏は会見のなかで「反省」という言葉を繰り返し、その一つとして湯河原の別荘を第三者に売却するとした。これもどこかずれている。舛添氏が批判されているのは湯河原に別荘を持っていることではない。都知事の職にありながら、たびたび別荘に行っていることが危機管理上の問題だと指摘されているのだ。別荘に行く理由については左股関節の手術を受けたため、自宅の湯舟がユニットバスのために入れず「たまたま湯河原のお風呂は広いですから、足を伸ばせるのです」と発言したが、片山善博元鳥取県知事が週刊誌の取材に答えたように「自宅の風呂が使いにくいなら、ご自身の負担で、改造なりすればいい」。そうすれば、わざわざ公用車を使って湯河原まで通う必要もない話だ。それに家族が別荘を利用する分は何の問題もない。「知事職にある間は我慢します」。そう発言するだけでよかった。多すぎる批判の声に禊のつもりだったのだろうが、どこかずれている印象だ。
都議会では身内だったはずの自公議員からまで追及の質問をぶつけられる事態になっており、答える舛添氏の顔には余裕の色が伺えない。自民党の田中たけし議員が百条委員会の設置について都に質問したところ、総務局長は「参院議員時代の問題はなじみにくい」と否定の見解を示した。都議会としては本会議、委員会で攻め立てていくことになるだろう。舛添氏にとっては神経をすり減らす日々が続く。下手な発言をしないように「反省します」の一言で押し通すしかない。ただ一つ、舛添氏には武器がある。「不適切だが違法性はない」と第三者機関がお墨付きを与えたことだ。違法でなければ、刑事告訴されることはない。後は亀のように手足を縮めて、嵐が通り過ぎるのを待つだけ。そんなプランが透けて見える。
「疑惑の総合商店」。都議会ではそんな言葉まで飛び出した。商社でないところは、舛添氏の「せこさ」を揶揄しているのだろう。確かに、政治資金を使って金魚の飼い方やそばの打ち方、ピザ釜の作り方を勉強したというのは苦笑せざるを得ない。政治家のそば打ち仲間とそばを打ちながら政治談議をしたり、ピザ釜で焼いたピザを支援者にふるまいながら政治に関する意見を聞いたことを政治活動として認めるに至っては、第三者の”厳しい目”とはどんな目だったのかと言いたくもなる。すでに指摘されているが、そもそも調査に当たる第三者を舛添氏自身が選定すること自体が間違っていた。出来レースの批判を受けることは容易に予想できたはずであるし、実際にそうなってしまっている。結局、ザル法といわれる政治資金規正法に照らせばこのような結論になることは事前にわかっていたわけであるし、当初から第三者に弁護士を充てることには疑問視されていた。それもすべて舛添氏のシナリオ通りということか。都議や都民からの批判の声にじっと耐え続ければ、6月30日には約380万円の夏のボーナスが待っている。
(了)
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