玄海町長選、争点はローカル5Gだけか 「町の将来像が見えない」町民の違和感
任期満了にともなう玄海町長選が7月21日に告示され、3選を目指す現職の脇山伸太郎氏と、町役場の元防災安全課長で新人の日高大助氏による一騎打ちとなった。最大の争点として前面に出ているのが、町が約10億4,800万円を補助したローカル5G事業者、ヴルーヴ(株)の経営破綻である。一方、町の将来を大きく左右する「核のごみ」の文献調査をめぐっては、両候補の立場に明確な違いが見えない。選挙戦を町民はどう受け止めているのか。
8年ぶりの選挙戦
任期満了にともなう佐賀県玄海町長選は7月21日に告示され、現職と新人の2人が立候補した。投開票は26日に行われる。6月1日現在の選挙人名簿登録者数は4,038人。2022年の前回選挙は脇山伸太郎氏が無投票で再選しており、町長選が選挙戦となるのは8年ぶりとなった。
立候補したのは、届け出順に、無所属で現職の脇山伸太郎氏(69)と、無所属新人の日高大助氏(55)。脇山氏は玄海町出身。自営業を経て2001年に町議に初当選し、総務文教常任委員長、産業建設常任委員長などを歴任した。18年の町長選で初当選し、現在2期目。今回、3期目を目指す。対する日高氏も玄海町出身で、1994年に町役場へ入庁。産業振興課、企画商工課、防災安全課長などを歴任し、今年5月13日付で退職して出馬した。
現職町長と、町政の実務を担ってきた元幹部職員との対決である。その争点として前面に出ているのが、町の高度化通信網構築事業、いわゆるローカル5G事業をめぐる問題だ。
ローカル5G事業は頓挫、補助金10億4,800万円は回収困難
まず、ローカル5G問題をめぐる経緯を簡単に振り返ろう。
23年、玄海町は町内にローカル5GやWi-Fiなどの高速通信網を整備し、企業誘致や産業振興、町民サービスの向上を図ることを目的として「高度化通信網構築事業」を構想した。同年10月に公募型プロポーザルを実施し、東京都のヴルーヴを事業者に選定した。玄海町はヴルーヴに対し、23、24年度の2年間で補助金約10億4,800万円を交付。ヴルーヴはこの補助金を基に、ローカル5GやWi-Fiなどの高度化通信網を町内に整備した。 25年5月、ヴルーヴは玄海町内でローカル5Gの本格運用を開始したと発表した。25年度からは、整備した通信網を企業誘致や各種サービスに活用する運用段階に入る予定だった。
ところが、同年3月、玄海町はヴルーヴが提出した実績報告書のなかに虚偽とみられる請求書が含まれていることを確認した。町は5月、ヴルーヴが申請していた25年度分の補助金約2億4,000万円を交付しないことを同社に通知。6月には、有印私文書偽造の疑いがあるとして佐賀県警に告発状を提出した。これに対しヴルーヴ側は、補助金交付の遅れや、下請事業者とのトラブルにともなう預金口座の差し押さえによって資金が枯渇したとして、7月16日に全事業を停止し、同月23日、東京地裁から破産手続き開始決定を受けた。9月に入り、玄海町は過年度分を含む補助金の交付決定を取り消し、ヴルーヴに返還を命じたが、同社はすでに破産手続きに入っており、全額回収は困難な状況となっている。
本件事業については、公募型プロポーザルの公告から事業者決定までの期間がわずか2週間だったことなど、事業者選定や補助金交付の過程に複数の問題があった。当社はこれまで、連載「玄海町ヴルーヴ破産問題」で詳しく報じている。
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「玄海町ヴルーヴ破産問題」(2025年9月16日掲載開始、全5回)
争点はローカル5G、一方「核のごみ」は……
町内には、ヴルーヴが補助金で整備した通信機器などが残されている。ただし、これらは町有財産ではなく、破産したヴルーヴの資産として破産管財人の管理下にある。
今回の町長選で、両候補の違いが鮮明に表れているのは、このローカル5G設備と事業を今後どう扱うかについてだ。事業を進めてきた現職の脇山氏は、新たな事業者に設備を取得、運用してもらい、企業誘致や産業振興に活用することで町民の利益につなげると訴える。すでに整備された設備を無駄にせず、事業を再構築するという立場だ。一方、日高氏は、脇山町長の強い意向で10億円を超える補助が行われたにもかかわらず、企業誘致の成果を上げられないまま運営会社が破綻し、事業が止まったと批判。事業の進め方と予算執行の見直しを訴えている。
しかし、玄海町が抱える問題はこればかりではない。玄海町では現在、原子力発電所の使用済み核燃料を再処理する際に生じる高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」の最終処分地選定に向けた文献調査が進められている。
24年4月、地元の飲食業組合や旅館組合など3団体が出した文献調査への応募を求める請願について、玄海町議会は賛成多数で採択。5月、これを受けて国が文献調査実施の申し入れを玄海町に対して行い、脇山町長が受け入れを表明した。翌6月から原子力発電環境整備機構(NUMO)による文献調査が始まった。
文献調査の期間の目安とされる2年はすでに経過している。調査報告書が示されれば、次の段階である「概要調査」へ進むかどうかが問題となる。国は、市町村長ならびに都道府県知事の意見に反して次の段階へ進まないとの方針を示しており、概要調査への移行にあたっては、今回選ばれる町長と、佐賀県知事の意見が聴かれることになる。ちなみに山口祥義・佐賀県知事は、現時点では概要調査の受け入れ反対を表明している。
今回の町長選は、玄海町の将来にかかわる重要な選挙になるはずだ。ところが、核のごみ問題に対する姿勢について、両候補は大きな違いを示していない。両候補とも、「概要調査」へ進むかどうかについては、文献調査報告書の内容を踏まえて判断するとの姿勢を示すにとどまっている。
住民の声「町の将来像が見えない」
では、今回の選挙戦を町民はどう見ているのか。当社は、町内で事業を営む住民に話を聞いた。
ある住民は、ローカル5G問題の検証や責任の明確化が必要であることは否定しない。しかし、選挙戦がローカル5Gをめぐる現職への批判と反論に集中していることについて、率直な違和感を口にした。
「ローカル5Gも大事かもしれない。しかし、本当に町の将来を考えるのなら、もっと重要なことを議論すべきではないか。玄海町の未来をどうしたいのか、玄海町で暮らす住民や子どもたちの未来のためにどういう町にしたいのか、そういう議論をすべきなのに、選挙のなかでは過去の事業や町政運営を批判し合うだけの足の引っ張り合いしかしていない。両候補の主張に町の将来像がまったく見えてこない」
住民には、現職町長と町役場出身の新人候補との対決が、町の将来をめぐる政策論争というよりも、町役場内部の対立が選挙戦に持ち込まれているようにしか見えないという。
住民がローカル5G問題以上に懸念しているのは、やはり核のごみをめぐる文献調査の行方だ。住民は、調査が次の段階へ進んだ場合、漁業や農業、飲食業などに風評被害がおよぶ可能性を心配している。町のイメージが悪化して客足が遠のいたとしても、個々の事業者に十分な補償が行われる保証はなく、国から町に多額の交付金が入ったとしても、それが町民全体の生活や地域の事業者に還元されるのか疑問が残るという。
巨額の公金は誰のためか 置き去りにされる住民生活
玄海町では、通信環境の整備や先端企業の誘致、廃校施設の活用が進められ、町内にある佐賀県立唐津青翔高校にはeスポーツ学科が開設されるなど、デジタル分野を前面に出した地域振興が進められてきた。町や県は、電源立地としての特性を生かした企業の集積や、デジタル技術を学ぶ人材の育成、町外からの生徒の呼び込み、地域との交流などを期待する。
しかし、取材した住民は、こうした取り組みが町民の雇用や所得、地域経済にどう結びつくのかが見えにくいと話す。大型事業を進め、町外から企業や人を呼び込むこと自体が悪いわけではない。だが、多額の公金を使うのであれば、何人の雇用を生み、町内企業にどの程度の受注や経済効果をもたらし、人口減少の抑制にどうつながったのかを検証しなければならない。
ローカル5G事業では、企業誘致や産業振興という将来像が掲げられた。しかし、事業者が破綻し、町に残されたのは、今後の活用が見通せない通信設備と、約10億4,800万円に上る補助金の返還・回収問題だった。昨年9月にはローカル5Gに関する特別調査委員会が玄海町議会で開かれ、脇山町長や執行部に対して町議らから厳しい質問が飛んでいた。しかし町議からも「高い勉強料」との発言も出るなど、予算を議決し、行政を監視してきた議会自身の責任が十分に意識されているのかという疑問も浮かぶ。
取材に応じた住民は次のようにも述べていた。「最先端企業がきた、ローカル5Gができたといわれても、何のためにそれが必要で、それが住民の暮らしや経済にどのようなプラスの影響を与えるのかまるでわからない。国からお金が入って、そこで潤うのは誰なのか。町民全体の暮らしが良くなるのか。それとも、一部の事業や関係者だけなのか。もっと実際の住民を見据えた政策を行ってほしい」。
玄海町は原発立地自治体として多額の交付金を得ている。しかし、豊富な財源を背景に進められたローカル5G事業は、住民生活との具体的な接点が見えないまま事業者の破産に至り、町は設備の取り扱いや補助金の回収といった後始末に追われている。そこから浮かび上がるのは、巨額の財源をもちながら、それを住民の生活向上や町の明確な将来像へ結びつけられていない町政の姿ではないか。取材に応じた住民の言葉には、そうした町政への不信とともに、核のごみをめぐる今後の判断が、町の暮らしや生業に何をもたらすのかという不安がにじんでいた。
【寺村朋輝】








