光を失った裏磐梯(1)裏磐梯と観光

福島自然環境研究室 千葉茂樹

 現在の裏磐梯は、かつての輝きを失った。今、行っても感動などない。あるのは、かつての名声・残像だけである。草や木がボウボウの状態である。五色沼もため池のようである。ついには遊歩道にクマが出て、観光客を襲った。その原因は、どこにあるのだろうか。全5回で順に解明していく。 

失われた五色沼の輝き

画像1

 裏磐梯(磐梯連峰の北側)をめぐる旅では、一番初めに五色沼湖沼(こしょう)群の「毘沙門沼(びしゃもんぬま)」を訪れる場合が多い。この沼は、2000年頃まで観光客で溢れていた(画像01)。ここからは、五色沼遊歩道(ハイキングコース)が西方約4kmの柳沼まで伸びている。かつては、観光客がひっきりなしに歩いていた。今は、まばらである。また、東側には「磐鏡園ウッドチップ遊歩道」もある(画像02)。

画像0

 26年8月19日にこの地に行った。観光客が「激減」し、敷地内にあったホテル五色荘も「廃業」していた。この日は、中国人観光客が30名ほどいるだけだった。かつては、常時150名程度の観光客でごった返していた。かつての栄光は影もかたちもない。あるのは「凋落(ちょうらく)だけ」である。

 眼下に広がる「毘沙門沼」は、かつてはブルーに輝いていた。前出の画像01の輝きである。ところが、この輝きはもうない。画像03は12年と26年の比較である。26年は「農業用ため池」のようである。比較のために、近所のプールの画像を入れた。プールの水も緑色をしている。

画像03

 これなら昨年、私が掲載した「幻の沼(新発見、磐梯山1888年噴火の遺構・遺物(前))」のほうが、はるかに美しい。再掲載する(画像04)。本来の五色沼の湖沼群はこんな色である。

画像04

「ため池色」になった原因

 地元の人は、「観光施設が雑排水を垂れ流したので濁った」ともいう。

 現在の毘沙門沼は、「やや緑色の濁った水」である。浅瀬を見れば、薄めた「ウーロン茶」のようである。私の見るところ、大量の有機物が流れ込み、植物プランクトンが増えて、「ため池色」になったのではないかと思う。有機物が増えた原因は、「人間活動の排水」や「落ち葉・朽ち木・枯れた草の増加」が考えられる。順に考えていく。

 まず、地元住民のいう「観光施設からの排水」である。毘沙門沼から東側には渓流があり、水は沼から出ていく。このため、生活排水は毘沙門沼には「入っていない」と考えられる。逆に考えれば、毘沙門沼には上流にあるほかの沼から水が流れ込んでいる。

 次に、沼への「落ち葉などの流入」である。五色沼周辺を見れば、かつては「森が透けて」遠方の山が見えた。しかし、今は「鬱蒼(うっそう)とした森」である。最近は森の手入れが行われていない。この森から大量の「葉っぱ・枯れた木や枝・枯れた草」が、沼に入り込んで「水質を悪く」しているように私には思える。これで現状の「ため池色」になったと思う。

 なお、水の色は単純ではない。もともとの五色沼の色は、火山体の地下を通ってきた水が土の鉱物(分解した粘土鉱物)を溶かし出し、これが金属イオンと反応して醸(かも)し出している。

 「イオンの色(水の色)」について、「土の色」を例に示す。土は通常、茶色や黄土色に見える。ところが、土木工事で地面を深く掘ると「青色」の土が出てくる。これらの色は、土に大量に含まれる「鉄イオンの色」である。地面(酸素のある所)では「+3(赤色、酸化の色)」になり、地下(酸素のない所)では「+2(青色。還元の色)」になる。土の色「黄土色」か「青灰色」は、この鉄イオンの状態による。正確には、この鉄イオンの色と粘土鉱物の色が混じっている。
 話は戻って、五色沼のきれいな水の色も、基本は水に含まれる元素の「イオンの色」である。

磐梯連峰が見えない

 00年頃までは、遊歩道のどの場所でも磐梯連峰の「磐梯山」「櫛ヶ峰」「1888年爆裂火口」が見えた。かつては、五色沼の色彩と火山の風景が調和し、実に壮大な風景であった。

 ところが、今は磐梯の山々はほとんど見えない。遊歩道の周辺は、「鬱蒼(うっそう)とした森」になった(画像05)。原因は後述する。

画像05

 こんな中、今年7月17日、五色沼遊歩道で「クマによる観光客襲撃事件」が起きた(【速報】五色沼湖沼群遊歩道でクマに襲われ散策中の外国人女性が腕や顔にけが 福島・北塩原村)。場所は遊歩道の真ん中の「赤沼」である(画像06)。

画像06

 なお、「赤沼」という名であるが、沼の水の色は「緑がかった乳白色」である。名前の由来を調べると、沼の縁(水際)に酸化鉄(赤さび)がついて「赤い」ので、赤沼というそうである。

 次回記事では、クマ襲撃事件について書く。

(つづく)


<プロフィール>
千葉茂樹
(ちば・しげき)
千葉茂樹氏(福島自然環境研究室)福島自然環境研究室代表。1958年生まれ、岩手県一関市出身、福島県猪苗代町在住。専門は火山地質学。2011年の福島原発事故発生により放射性物質汚染の調査を開始。11年、原子力災害現地対策本部アドバイザー。23年、環境放射能除染学会功労賞。論文などは、京都大学名誉教授吉田英生氏のHPに掲載されている。
原発事故関係の論⽂
磐梯⼭関係の論⽂
ほか、「富士山、可視北端の福島県からの姿」など論文多数。

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