事務次官目前にして足踏み、経産省・嶋田隆の悲哀(後)
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やがて嶋田氏はJFEホールディングスの数土文夫会長を戴いて自身も取締役を兼務して東電に乗り込んだ。電力自由化を推し進め、抵抗する幹部社員を容赦なく左遷した。このことが東電守旧派の恨みを買うことになる。前述の「霞が関通信」も「左遷された元広報担当者がやったともっぱらの噂だ」と事情通は打ち明ける。
数土会長、嶋田取締役の急進的な改革に対して、おもしろくないのが東電守旧派だからである。広瀬直己社長のもとには、かつての東電の実力者である勝俣恒久元会長に連なる人脈がうごめいていた。「勝俣さんは東電本店に近い有楽町にある東電のOBの集まる部屋にきています。広瀬さんはたまに夜、勝俣さんと会っていたみたいです」(事情通)。勝俣氏の影響力を排除したい嶋田氏にとって、守旧派の勝俣氏と裏でつながっているように映る広瀬氏は東電改革に不熱心な抵抗勢力と映ったのだろう。
嶋田氏の後任として経産省から東電に送り込まれた西山圭太取締役は昨年10月、全社に緊急に通達を送った。それは、「過去の東電の体質と明確に決別を内外に明確にする必要がある」とし、「事故時の経営陣と接触し、経営方針を相談するという働きかけをし、その他上記に違背する行為は一切慎む」と求め、違反すると「コンプライアンス違反として厳正に対処する」という厳しいものだった。西山氏はこれを取締役会で緊急動議として提出し、取締役会で決定されたという。
さすがに「冠婚葬祭で一緒になることだってあり得る。あまりにもやりすぎではないか」という声が東電社内から出たが、この通達が誰を狙っていたかは明らかだろう。嶋田氏と数土会長は今年6月の東電の株主総会を機に、広瀬社長退任のシナリオを描き、後任社長には数土会長の覚えめでたい佐野敏弘取締役を新社長に据える方向で動いた。だが、こうした策動を官邸が知るところとなり、「嶋田もやりすぎではないか」という声が上がった。依然として自民党の有力者にパイプを持つ、東電守旧派からの「嶋田排斥」の働きかけもあったのだろう。「嶋田のやりすぎ」が霞が関・永田町に鳴り響くようになった。
開成高・東大・経産省と受験エリートの道を歩んできた嶋田氏の盲点は、「自分ができる男」だと錯覚しがちなことにある。成城の自宅近所のファミレスに記者を集めては夜の懇親会で報道の相場形成を図ってきたが、「そこでの記者の選別は非常に露骨。自分の言う通りに書く記者だけが集められ、少しでも問題意識がある記者は徹底的に排除された。汚い男だよ、嶋田は」とベテラン記者。東電取締役時代には各社の取材依頼を自身が裁き、「原発推進の日経、読売、産経のアポイントメントは嶋田がどんどん入れるが、逆に朝日は徹底的に排除された」(某紙記者)。優越的な地位を乱用して、報道の相場形成を図ったのだろう。
同じように、東電における優越的な地位を乱用して反対派を追い詰めるやり方は、民主主義社会あっては、好ましくない。かくして嶋田氏は官邸からも罰点がつき、通商政策局長に異動することになった。異動は横滑りで左遷と言えるものではないが、次期次官レースは、同期の日下部資源エネルギー庁長官、さらに一つ下の安藤久佳商務情報政策局長らライバルと横一線の混戦状態になりそうだ。エリート嶋田氏の初めての蹉跌であった。
(了)
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