2024年12月24日( 火 )

【熊本地震・有識者の見解】人命だけでなく資産価値も守る免震構造(中)

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福岡大学 工学部 建築学科 教授 高山 峯夫 氏

免震のオリジナルは福岡大学にあり

 ――次に、先生のご専門でもあります免震構造について、詳しく教えてください。

 高山 免震構造は、日本では80年代初め頃に登場してきた技術です。世界ではもう少し早く、70年代後半に南フランスやギリシャなどから始まりました。それがニュージーランドに行き、アメリカで始まり、その後が日本です。いずれにしろ、そうした情報が入手できたので、日本でも免震構造をやろうということで、70年代の終わり頃から、ここ福岡大学で実験を行い、実用化しました。したがって、日本での免震のオリジナルはここ(福岡大学)にあると言えます。

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 我が国の“免震の父”と言われる人は、多田英之(ただ・ひでゆき)という先生で、福大の教授として免震構造の研究を行い、実用化へと乗り出しました。ヨーロッパでは免震構造に「積層ゴム」が使われていたのですが、日本向けのより高性能な積層ゴムの開発を、70年代後半からここ福大でずっと実験を行っていました。それで、81年に一応の完成形ができて実用化に漕ぎ着け、その成果を受けて翌82年には千葉県八千代市で2階建ての免震住宅をつくりました。その結果、日本では80年代くらいから免震構造が一応実用化に至り、国のほうでも審査体制を整えてきたことになります。

 そして、事務所ビルやマンションが免震構造でつくられていくのですが、最初のうちは年間数棟程度にとどまっていて、なかなか普及が進んでいきませんでした。ですが、95年の阪神・淡路大震災や、その前年にカリフォルニアで発生したノースリッジ地震で免震構造が施された建物が無被害だったことなどで、そこから一気に免震構造が普及していきました。その結果、今では年間150棟から200棟前後が建っています。やはり95年の阪神・淡路大震災のインパクトが大きかったことと、耐震構造でもあれだけの被害が出たので、病院や災害拠点となるところで免震構造が増えていきました。

 免震構造の基本は、地面と建物の間に絶縁する特殊な免震層をつくるのが特徴で、地面が激しく揺れたとしても、建物は緩やかにしか揺れないようにするというのが、今の免震構造です。この免震層で地震のエネルギーをほとんど吸収し、上部構造―建物にはほとんど伝えないという発想です。そのため、免震層をどれだけ柔らかくつくれるかという点と、いかに効率良く地震のエネルギーを吸収できるかという点が、免震構造の設計のポイントだと言えます。
 なお、我が国の免震構造の特徴としては、諸外国に比べればマンションでの事例が多いことが挙げられます。マンションの資産価値を守るという観点と、そのなかに住む居住者を守るという観点からも、免震構造が広く採用されているのだと思います。

 ――もう1つ、制震構造についても解説をお願いします。

 高山 耐震と制震構造では、地面が揺れたら建物も揺れるわけですから、地震のエネルギーがそのまま建物内に入ってきて、増幅されていくわけです。耐震構造は自分自身を傷つけることによってエネルギーを吸収するしかありませんが、制震構造は自分自身を傷つけなくても、「制震ダンパー」という地震のエネルギーを吸収するものを中に入れておくことによって、少なくとも柱や梁は地震のエネルギーを吸収せずに済むというのが、制震構造の考え方です。

 ――建物内に、地震のエネルギーを吸収するシステムというか、装置を入れるわけですね。

 高山 そうです。その装置にはいろいろなものがあって、摩擦でエネルギーを吸収するものだとか、ピストン型のオイルダンパーみたいなもので吸収するものだとか、さまざまなタイプがあります。いずれにしろ建物内に入ってきたエネルギーを、そうした制震装置で効率良く吸収することで、建物の地震応答を小さくし、柱や梁は守られるわけです。そのため大きな地震が来ても、損傷を抑えられるのが制震構造の考え方です。

(つづく)
【文・構成:坂田 憲治】

<プロフィール>
takayama_pr高山 峯夫(たかやま・みねお)
1960年、福岡県生まれ。82年、福岡大学工学部卒業。86年、東京大学大学院修了後、福岡大学にて免震構造の実用化に取り組む。免震構造の実現に欠かせない積層ゴムの実大破壊実験、有限要素解析に取り組み、積層ゴムの優れた荷重支持性能のメカニズムを解明。その成果により、98年に日本建築学会奨励賞受賞。免震構造だけでなく、地域やまちの災害リスクを低減する方策の研究にも力を入れている。専門は建築構造、免震構造。著書に「4秒免震への道」(理工図書)、「耐震・制震・免震が一番わかる」(技術評論社)がある。

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