2024年12月24日( 火 )

【熊本地震・有識者の見解】人命だけでなく資産価値も守る免震構造(後)

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福岡大学 工学部 建築学科 教授 高山 峯夫 氏

数%のコストアップで飛躍的な性能を

 ――今回の熊本地震のような大きな地震に直面しても、免震構造の建物内にいれば、体感的な揺れは随分小さく感じるものなのでしょうか。

 高山 まったく違うと思います。今回、熊本市内に免震マンションやホテルなどがあり、そこにも調査に行きました。そこの住人たちは、地震発生時にはもちろん多少の揺れは感じたものの、落ち着いた後に、免震構造でない隣のマンションと比べてみると、その被害の状況は全然違っていたそうです。耐震のマンションでは建物内がめちゃくちゃで、とても住めた状態ではない一方で、免震のマンションではまったく問題ありませんでした。

 ――人命はもちろんのこと、マンション自体の資産価値もほぼ保たれるというわけですね。

 高山 まず何と言っても、建物内部で家具や家電製品の転倒や破損が極力抑えられるのは、とても良いことだと思います。阪神・淡路でもそうでしたし、今回の益城町でも、亡くなられた方は建物や家具の下敷きになって亡くなられています。建物本体だけでなく、中の家具なども守ることができるのは、免震構造の大きなメリットです。耐震構造では、骨組みは軽微な損傷でとどまったとしても、内部はめちゃくちゃになりますから。耐震と免震の比較をすれば、免震のほうが格段に性能が良いというのは、一目瞭然なわけです。

 ――免震構造のメリットを挙げていただきましたが、逆にデメリットの部分では、やはりコスト的な面が挙げられるのでしょうか。

免震構造が採用されている福岡大学病院<

免震構造が採用されている福岡大学病院

 高山 皆さんコストのことを言いますが、ほかに敷地に余裕がいるというのもあります。“揺れしろ”として建物の周りに60cmとか80cmの隙間を設けて、免震構造が自由に動ける範囲を確保しておかなければなりませんので、その分、敷地に余裕がいります。ただ最近では、「中間階免震」と言って、1階部分は耐震だけれど、その上に免震層を入れて上部構造を免震にするものもあります。そうすると、敷地いっぱいに建てても、隣に建物がなければ動くことはできます。敷地にあまり余裕がないときは、そうしたもので“揺れしろ”を確保するという発想もあり、都市部でも免震構造を取り入れることはできます。

 また最近、古い歴史的な建造物を免震化するという動きもあります。東京駅もそうですし、上野の国立西洋美術館も免震構造になっています。そのように、既存の建物を免震化する技術もあります。ただし、そうした免震レトロフィットでは、基礎を掘って建物を支えながら積層ゴムなどを入れていきますので、工事はかなり大変ですし、コストもかかります。

 先ほど言われたように、免震構造のコストの問題もよく言われるのですが、私の考えとしては、大規模なものに免震を導入する際、そんなに値段は高くないとは思っています。そもそも得られる性能が格段に違うわけですから。「大きな地震が来たら被害を被ってしまう」というレベルと、「大きな地震が来ても全然大丈夫」というレベルのものを、同じコストでつくろうということ自体がナンセンスです。車でも、レベルによって得られる性能はいろいろ違いますし、値段は違っていて当たり前なわけです。得られる性能が2倍も3倍も高いわけですから、それがたった数%のコストアップで達成されるのであれば、コストパフォーマンスを考えるとむしろ安いと思います。ですが残念ながら、皆さんイニシャルコストのことしか頭にありません。免震の性能の良さを説明したうえで、「こんなに性能が良いのですけれど、たった数%のコストアップでできるんですよ」と言ったら、検討の俎上には上がってくるのではないかと思います。ぜひとも「本当にイニシャルコストだけで性能を評価していいのか」ということを、皆さんに考えていただきたいと思っています。

熊本地震復興の際にはぜひ免震構造の採用を

 ――今回の特集号のテーマは「熊本復興」ですが、先生のお考えとしては、復興にあたっての建物を再建や新築する際、重要な建物に関してはできる限り免震構造を取り入れていくのが望ましい、ということでしょうか。

 高山 そうですね。災害拠点となる役場や市庁舎の建物などは、ぜひ免震構造にしてもらいたいと思います。今回の地震で熊本市内の病院も被災しており、診療にあたれていない病院もあると聞いていますので、そうした施設にもぜひ免震構造を取り入れてほしいと思います。災害が発生すれば、当然ケガ人が出たり、あるいは常時病院通いをしなければならない人もいるわけですから、そういった意味では病院には免震構造を採用していただきたい。

 あとは、学校建築―体育館とか校舎にも免震構造を取り入れてほしいと思います。避難場所になっているはずなのに、地震で被災して、避難場所として使えなかったりしますよね。また、今回の地震の発生時間はたまたま夜間でしたが、もし子どもたちが学校にいて体育館を使っている時間帯に発生したら、そのために人的な被害が出る可能性もあります。

 ――地震はいつ発生するかわかりませんから、昼間に人口が集中するような施設には、倒壊して被害が拡大しないためにも、優先的に免震構造を取り入れるべきということですね。

 高山 あとは、最近よく言われるBCP(事業継続計画)の観点からしても、地震危険度が高いエリア、あるいは断層の近傍にオフィスビルなどを建てるのであれば、免震構造という選択肢はあってもいいと思っています。

(了)
【文・構成:坂田 憲治】

<プロフィール>
takayama_pr高山 峯夫(たかやま・みねお)
1960年、福岡県生まれ。82年、福岡大学工学部卒業。86年、東京大学大学院修了後、福岡大学にて免震構造の実用化に取り組む。免震構造の実現に欠かせない積層ゴムの実大破壊実験、有限要素解析に取り組み、積層ゴムの優れた荷重支持性能のメカニズムを解明。その成果により、98年に日本建築学会奨励賞受賞。免震構造だけでなく、地域やまちの災害リスクを低減する方策の研究にも力を入れている。専門は建築構造、免震構造。著書に「4秒免震への道」(理工図書)、「耐震・制震・免震が一番わかる」(技術評論社)がある。

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