筑後リサイクル店事件判決、解明はどこまで進んだか
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類例を見いだしがたい事案、真相解明の道半ば
元従業員ら3人が死亡した筑後リサイクル店事件は、8月8日、中尾伸也被告人の判決で1つの区切りがついた。しかし、遺族の悲しみや苦しみは終わらない。両被告人への判決は3人の傷害致死罪で有罪とした。同じ機会に複数の傷害致死を起こしたのではなく、別個の機会に傷害致死3件を起こしたという「類例を見いだしがたい事案」(判決)で、著しく常軌を逸した事件だった。動機にも、生命保険金目的や怨恨などは見当たっていない。
8月8日の判決は、「両被告人が、各被害者らを支配服従関係におき、みずからの意に沿わない言動があるたびに、理不尽な暴行を繰り返し、その結果、死に至らしめた」と述べている。判決は、元従業員の日高崇氏の死亡について、伸也被告人が殺意をもっていたとの証明がないと判断し、殺人罪の成立を認めなかった。その中心問題は、日高氏が死に至った最終的な暴行の態様、その時の身体状況、暴行と死亡との間の具体的な機序が不明だからである。
被告人らは、遺体を、伸也被告人の実家に埋め、その後掘り返して遺体を砕いて川に流し、被害者らが生きていると偽装するなど「狡猾な偽装工作」を行った。その結果、事件の発覚までに約10年が過ぎ、遺体は骨の一部しか発見されず、死因の特定もできていない。検察側は、両被告人が、日高氏に対し、人が死ぬ危険性が高い行為をそのような行為だと分かって行っていたので、殺意(未必の殺意)があったと主張。弁護側は、日高氏を殺害する故意はなく、伸也被告人の暴行と日高氏の死亡との因果関係もないから、殺人罪も傷害致死罪も成立しないと主張していた。
判決は、「通常の暴行や傷害行為と一線を画すそれ自体として死亡の結果を招く危険性の高い強度の暴行は見当たらない」と指摘。「日高氏が死に至った具体的な状況等は不明」「(元従業員で先に死亡した)古賀雄喜氏の死因や死に至った具体的な経過はなおさら判然としない」と述べ、日高氏に対して古賀氏と同様の行為を継続して死亡に至らせたと認定できる証拠はないと判断。概括的な体験事実をもって殺意を推認するのも困難とした。一方で、不始末を起こせば暴行を加えるとの包括的な共謀の成立、両被告人が暴行を繰り返した結果、日高氏が傷害を負い、同傷害によって死亡に至ったと認められると結論付け、傷害致死罪の成立は明らかだとした。
知佐被告人の妹とその夫の冷水一也氏の間の息子大斗くんの死亡について、伸也被告人の弁護側は、大斗くんを一時預かっていた知佐被告人が単独で引き起こした事件であり、教育方針を話し合ったことも、口で言っても分からなければ暴力を振るうという認識を共通にしたことはないとして、大斗くんへの暴行を共謀していず、知佐被告人単独の暴行によって死亡した可能性があるとして傷害致死罪の成立を否定していた。
判決は、伸也被告人が、知佐被告人の暴力を辞さない教育方針を容認し、援助・助長し、みずからが大斗くんに加える暴行の理由としていたと言うべきだと述べて、大斗くんが意に沿わない言動をする場合に暴行してでも言うことを聞かせるという包括的な共謀が成立していたと認めるのが相当との判断を示した。
「支配服従させ、理不尽な暴力」がなぜ繰り返されたのか
時効のため起訴されなかった古賀氏の死亡も含めて4人の死亡事件はいずれも、両被告人が経営するリサイクル店と自宅アパートという空間で起きた。
「支配服従させ、理不尽な暴力」がなぜ繰り返され、なぜ4人もの人間が死亡しなければならなかったのか、捜査機関の真相解明は困難を極めた。
解明にある程度資する供述をした伸也被告人の記憶や供述内容は曖昧で、知佐被告人の供述は、具体的で迫真性に富むが、自己の責任を回避し伸也被告人に過剰な責任を押し付けるための虚偽の疑いが濃厚であった。
両被告人が判決を契機にして反省を深め、被害者の生命を奪った最終的な暴行の態様など、事件の核心をみずから明らかにすることが、被害者と遺族への謝罪と反省のしるしになる。【山本 弘之】
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