2024年11月26日( 火 )

最大手の韓進海運が法廷管理になった背景(後)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)

 では、なぜ韓進(ハンジン)海運は、このようなことになってしまったのか――。その背景を見てみよう。

 海運業を理解するためには、まず用船料を理解する必要がある。用船料とは、船舶を船主から借りるときに支払う賃料である。海運会社は船舶を全部自前で保有しているのではなく、船舶を借りて営業をしている。韓進海運は合計151隻の船舶を保有しているが、その60%にあたる61隻は、実は用船である。

container-min 海運業は2000年代の初めと中盤は、市況が良かった。そのため、海運業がずっと良くなると判断した韓国の海運会社大手(韓進海運と現代商船)は、船舶の確保に走った。しかも船舶を安定的に確保するため、契約期間も10年以上の長期契約を選んだ。
 しかし、予想は裏目に出て、08年にリーマン・ショックが発生。取り扱い貨物量は減る一方、船舶だけは供給過剰状態で、運賃と用船料は大幅に下がった。

 たとえば、18万トンのバラ積み船の1日の使用量は、06年には14万ドルであったが、今は10分の1の1万4,000ドルになっている。このように今の用船料では、経営が悪化が避けられない状況に置かれているのが、韓進の実情である。なので、韓進海運の経営を立て直すためには、何よりも船主との再交渉で、用船料を下げるのが急務である。
 それに、普通は取り扱い貨物量をまず確保したうえで、船舶を確保するのが順序であるが、どういうわけか韓国の海運大手2社は、逆のアプローチをしている。
 このような未熟な経営戦略が、苦境の要因である。韓進海運の社運が傾いたのは、最初は会長の死による経営者の交代がきっかけだった。そのときの未熟な経営が、今日のような状態の端緒になっている。

 一方、政府に対しての批判も高い。リーマン・ショック後、海運会社が経営不振に陥った際に、構造調整など経営を立て直すチャンスはあったが、それを怠ったのは政府だという批判である。
 また、商業銀行は手を引いたなかで、産業銀行、農業など国策銀行は、なぜ1兆ウォンを上回る莫大な税金を注ぎ込むようになったのかを明らかにする必要もあるだろう。さらには、政経癒着の疑惑も囁かれている

 韓進海運は、海運業で国内1位、世界8位の企業である。コンテナ船を中心に、アジアと米州路線に強みがあった。韓進海運の法廷管理申請は、一時的であろうが、物流に混乱を引き起こしている。海外債権者の船舶仮差押、貨物運送契約の解除、入港禁止、陸揚げの中止など、余波が続いている。

 韓進海運の未払い金は、用船料2,455億ウォン、運搬費2,200億ウォン、装備利用料1,087億ウォン、燃料代363億ウォンである。韓進海運は、これを現金で支払わないと、作業はしてもらえないし、入港ができない状況である。しかし、流動性危機に陥った韓進海運には、そのような資金がない。

 さらに今後、国際海運同盟からの退出も予定されている。それが既成事実になると、営業はほぼ難しくなる。世界1位のマスク社でさえ、国際海運同盟の力を借りないといけない立場であるため、韓進海運はなおさらである。自社の船舶だけで営業を展開するのは、至難の業である。
 韓進海運の船舶はスエズ運河を通行できなくなったりと、波紋が広がっている。また、韓進海運船舶の入港を拒否している国は、すでに23カ国におよんでいる。

 韓進海運が法廷管理に入ることによって、物流に、それも港湾を中心に深刻な被害が広がっている。従来、政府は大きな会社は絶対潰さないという方針があったが、今回はそのルールも破られたことで、業界では驚きを隠せていない。政府では、用船料を下げない限り、資金支援をしても海外の船主を潤すだけだと強気である。一方、業界では、1つの会社の興亡で終わるのではなく、インフラを失うという大損失につながるので、救済すべきだという主張で対立している。

 専門家は、業界のこのような主張は、少し誇張されていて、今回は筋を通すことが大切だと指摘する。今後、法廷管理に入った韓進海運は本当に清算に入るのか、それとも劇的に甦るかは、法廷の手に委ねられている。

(了)

 
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