東ヨーロッパには何があるのだろう(27)
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大型フェリーで対岸のヘルシンキへ~バルト海2
バルト海は、もとは巨大な氷の下敷きになっていたところだ。もちろん、数万年前の氷期には、北緯55度以北のほとんどの地域がそうだったのは常識だろうが、この地域は数千メートルの厚さの氷の下にあったはずだ。それが溶けて大きな淡水湖ができ、氷床の重さから解放され、上昇を続けた湖はやがて海につながり、そこから海水が流れ込んで汽水海になった。
この海は、今でも1年間で1cmほど隆起しているという。このままそれが続けば、平均水深55mのこの海は5000年後には大地になる。5000年が長いか短いかは別として、人間の歴史同様、海までも動き続けていることになる。
“バルト”と言われるこの海は、そのロマンチックなイメージとともに、もう1つの顔も持っている。それは“世界一”汚いという顔だ。
日本の面積より少し広いこの海には、その何倍もの流域面積から流れ込む川がある。バルトの海を囲む国は、ロシア、フィンランド、ドイツ、スウェーデン、ポーランドなど、バルト三国も含めて9カ国。沿岸地域には7,000万人が住む。これらの国は工業国であり、旧共産国だ。その排水に問題がないとは、とても言いきれない。とくにロシアをはじめとする旧社会主義国は、排水対策が後手に回って、汚染水を長期間排出してきた。
おまけに、9つの国からなる大地に閉じ込められ、外海とつながるのは、その幅十数キロ足らずのスカゲラック海峡があるのみだ。水が入れ替わるのに30年以上かかる。海水の入れ替わりが少なく、流れ込む排水がたっぷりのこの海は、その性質上、汚染に弱い。
さらにフェリーを始め、行き交う船も多い。河川排水に加え、船舶が廃棄する糞尿を含む汚水も相当なものになることは、想像に難くない。これでは、海の生気が失せる。バルトの海は、幸薄き乙女のイメージだ。ここには、ハワイの猛る波もなく、沖縄のエメラルドの輝きもない。時にその顔を深い悲しみの霧で隠す。
汚染のせいか温暖化のせいか、乱獲の結果かはわからないが、かつてこの海で大量にとれていたタラの漁獲が、ピーク時に比べると激減しているのだという(その代わりと言っては何だが、タラという捕食者が減って(?)ニシンが豊漁だという。これは零細漁業者には好都合?)。バルト艦隊
バルトとはドイツ語の“森”だが、バルト海の名の由来は、ラテン語でこの地方をバルトと呼んだことから来るという説や、リトアニア語の「白」から来たという説などあるが、それはともかく、バルトを1字入れ替えると“バトル”になる。9カ国の庭が境を接するこの海には、戦うための船の基地が国の数だけある。
なかでも有名なのが、かの「バルチック艦隊」だ。別名「バルト艦隊」ともいうこの船団は、その昔、東洋の島国と日本海で戦をした。主力艦が喜望峰を越え、3万3,000km以上の航海を半年かけてやってきた。あまつさえ、この艦隊は思うようにいかない補給の末に海戦に突入し、ほぼ壊滅した。世に言う“日本海海戦“だ。この勝利には、数多くの偶然と幸運が隠れている。しかし、それは嚇各たる戦果の部分だけが強調され、後の無謀な戦争の遠因の1つにもなる。その艦隊がこの港から出たということには、ある種の感慨を覚える。
この海には、それこそ限りない犠牲の血が流れ込み、出て行っているのだ。戦争は山ほどの不幸を生む。いかに正義の戦いを叫んでも、平和に勝る戦争はない。
(つづく)
<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。関連記事
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