ヒラリーが自滅 トランプ大統領誕生が決定的に(2)
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SNSI・副島国家戦略研究所 中田安彦
政治家と健康。これはどこの国でも重要な問題だ。権力者の健康情報は最高機密だが、選挙で戦っている際に、健康について情報を隠すというのは致命的だ。ヒラリー候補が卒倒する数週間前から、トランプ支持の保守系の「ドラッジ・レポート」や「インフォウォーズ」といったニュースサイトでは、階段を登るヒラリー候補の足元がふらついて支えられている映像や、遊説や会見の場で激しく咳き込む映像、更には民主党大会で異常な表情でリアクションをする映像などに加え、ヒラリー陣営側近には黒人の医療関係者がいるのではないかという疑惑が繰り返し取り上げられた。8月中旬には、保守活動家のアレックス・ジョーンズからシークレットサービスの関係者から「もうすぐヒラリー選対から健康に関する重大な発表がある」とリークされたという情報が伝えられた。また、ウィキリークスの公開メールの中で、11年に彼女の外交アドバイザーがなぜか「パーキンソン病やアルツハイマーの治療薬」についての情報を彼女の私的メールアドレスに送っていることが暴露された。ここから「ヒラリーはパーキンソン病ではないか」とする噂が広がっていた。(参考リンク:The Political Insider、INFOWARS)
そもそも党大会が終わった8月中、彼女はトランプ候補とは対照的にほとんど遊説を行っておらず、健康に問題があるのではないかと言われていた。9月に入って長らく行っていなかった(私的メールサーバー問題について集中するのを嫌がったと言われた)記者会見をようやく開き、移動するジェット機に同行記者団を搭乗させるなどのサービスをし、メディア対策に乗り出したが、その日も記者団の門前で激しく咳き込んでしまった。直後の遊説では彼女は「この咳はトランプアレルギーなのよ」と笑い飛ばしたが、すでに保守系のサイトが過去の映像から咳き込むシーンをたくさん掘り出していたので説得力がなかった。そうして911の式典会場で彼女は倒れた。後で金曜日に肺炎の診断を受けていたと発表されたものの、その情報をなぜ日曜日まで隠していたのかと批判が上がった。メール問題での情報公開など不利な状況が続き、トランプ候補に追い上げられる彼女が残り2カ月のラストスパートをかけようとしていた時のまさに最悪のタイミングだった。
さらに彼女にとって不運だったのは、肺炎の診断をされたまさにその同じ金曜日に、彼女が有権者を逆なでする問題発言をして、激しい批判をトランプ陣営から浴びていたことだ。LGBTの支援者向けの資金集めパーティで、ヒラリー候補は、トランプ支持の一般有権者の半分が、「人種差別主義者、性差別主義者、同性愛嫌い、排外主義者、イスラム排斥主義者」などの「deplorables 」(惨めな人々)の集団だと吐き捨てるように言っていた。この日の集会は資金集めパーティにしては珍しく一般公開していたのでマスコミが殺到していた。この一部始終が報道されてしまった。選挙の基本として、「候補者は相手候補者の批判はしてもいいが、相手候補の支持者を直接的に批判してはならない。なぜなら大統領また政治家は、国民すべての代表者だからだ」という建前がある。実際、12年の大統領選挙では、共和党のミット・ロムニー候補が「47%の米国民が連邦所得税を支払っていない。彼らは政府に依存するだけだ」と国民の半数を「たかり」だと見下した発言を非公開の富裕層向けの資金集めの集会で行ったことが発覚、これが致命傷になってオバマ再選を許したということがあった。資金集めの集会は支持者向けに過激な発言になりがちなことはよく言われているが、ヒラリー候補もこの落とし穴にハマってしまった。
(つづく)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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