2024年11月14日( 木 )

ヒラリーが自滅 トランプ大統領誕生が決定的に(3)

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SNSI・副島国家戦略研究所 中田安彦

 一方、トランプ候補は、有権者に対して「おーい、低学歴のみんな、俺は君たちが大好きだ」と独特のユーモアで低所得の白人層に訴えたり、「これ以上、アフリカ系黒人の有権者が民主党に票のためだけに利用されていいのか、失うものがないんだから俺に投票してくれ」とかなり際どいアピールを行ったりしたものの、ロムニー氏やヒラリー候補のようなあからさまに有権者を見下す言葉は発していない。「大統領ってのは国民50%や75%の代表じゃいけないんだ。みんなの代表じゃなければならないんだ」とヒラリー候補の発言の後、トランプはテレビに出演して語っている。クリントン財団問題やウォール街の高額講演料の問題で、「富裕層1%の代表」と批判されたヒラリー候補が、トランプ候補の支持者の半数を「ろくでなし」呼ばわりしたのだから、普通の有権者が怒るのも当然だ。そもそも、一般有権者は普段は労働者として日夜、汗を流して働いている。その彼らがワシントンのエリートのように「政治的正しさ」について慎重に配慮した建前だけを日ごろ話しているわけがない。中には「差別的である」とメディアの放送では載せられないことも当然語っている。それはどこの国でも同じことである。そういう本音を隠さずに語るので、偽善的なエリートにうんざりした有権者の支持をトランプ候補はつかむことができたのだ。

usa この間、トランプ候補は陣営にヒラリー候補卒倒ビデオのことをSNSなどで愚弄してはならないときつく命じていた。普段はこういう時に悪乗りするトランプ陣営が沈黙した。おそらく8月下旬に選対本部長に就任した、選挙のプロのケリーアン・コンウェイ女史の指南だろう。トランプが沈黙したため、この日(9.11)には、CNNではこの「ろくでなし演説」と卒倒するシーンの映像が10分おきくらいで交互に流されていた。有権者を罵倒し、自分の健康問題を有権者に隠蔽した元国務長官というイメージがこれで刷り込まれた。ネット上では「Hillary is done」(ヒラリーはもう終わり)と一般のトランプ支持者が書き込み続けた。オバマ大統領のコミュニケーションを指南したデイヴィッド・アクセルロッド氏も、ツイッターでヒラリー陣営の秘密主義を批判した。「卒倒映像」と「罵倒映像」の負の相乗効果でヒラリー候補は再起不能だ。

 考えてみてほしい。ヒラリー候補はこれからも選挙活動を続けると言っているし、改めて詳細な健康診断書を公開すると言っている。しかし、それが正しい保証はない。まだ何か病気を隠しているかもしれない、と、すでに私的サーバーでやり取りした、隠されてきた大量の電子メールが次々と明るみになったヒラリー候補だ。誰が本気で熱心に支持しようと思うだろうか。仮に彼女が逃げ切って大統領になっても、いつ発作が襲ってくるかわからないとみな不安になるだろう。アメリカ大統領は世界で最も激務の国家指導者といってもよい。すでに健康に不安があるヒラリー候補よりも、発言に不安があるが、体力的にもスタミナも万全で、議会、州政府での行政経験豊富なペンス副大統領候補を擁立しているトランプ候補に無党派の票は向かうだろう。ヒラリー候補は無党派の票を引き寄せておかなければ勝てないのだ。

 過去、大統領が公衆の面前で卒倒した映像といえば、1992年の大統領選挙の年の1月、訪日していたブッシュ大統領(父)が、当時の宮沢喜一首相主催の晩餐会でいきなり嘔吐して倒れたということがあった。この時も映像は全米で放送された。その結果もあって、ブッシュ大統領の再選はかなわなかった。そして、ビル・クリントン大統領が誕生した。この時と今年の大統領選挙は、第3党の候補が異常な注目を集めており票が分散するのではないかと言われている点でもよく似ている。ただ違うのは、健康問題(だけではないが、スキャンダル報道で追いつめられてストレスで体調を悪化させたのは確かだ)で追いつめられたのは、ビルの妻であるヒラリーであったことだ。因果は巡る、というほかない。

(つづく)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
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