2024年11月28日( 木 )

【和歌山市発砲事件】覚せい剤の惨劇に遭った地場土木業者の実像(前)

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 2016年8月下旬、和歌山市で地域住民を恐怖に陥れる大事件が起きた。地場土木業者の代表者の次男が事務所内で従業員4名を拳銃で撃って逃走。警察に追い詰められてアパートに立てこもり、18時間後、最後は自分の腹部を撃って自殺した。事件の背景を追うなかで見えてきたのは、順調だった会社経営を大きく狂わせた覚せい剤の恐ろしさだ。

恐怖に見舞われた住宅密集エリア

事件現場の周辺は住宅が密集<

事件現場の周辺は住宅が密集

 8月29日午前中、和歌山市塩屋1丁目にある和大興業(株)の事務所内で、最初の発砲事件が起きた。撃たれた同社従業員の石山純副(いしやま・じゅんすけ)氏(45)は死亡、幸前啓喜(こうぜん・はるよし)氏(44)は意識不明の重体、そのほか従業員2名が重傷を負った。撃ったのは、同社代表取締役の次男で元従業員の溝畑泰秀(みぞはた・やすひで)容疑者(45)。溝畑容疑者は拳銃を所持したまま、同社の社有車で現場から逃走した。

 同社従業員の通報を受け、和歌山県警は溝畑容疑者の行方を追った。JR和歌山駅近くのカラオケ店駐車場で、溝畑容疑者が逃走に使用した社有車が発見された。潜伏先の可能性があるとして駅周辺のホテルが捜索されたが、この時点で溝畑容疑者の顔写真を公開しておらず、発見が遅れた。その結果、30日午前、「不審な男が泊まっている」としてホテルからの通報を受けて向かった時には、すでにもぬけの殻。電車による逃亡が考えられた。

 溝畑容疑者の全国指名手配とともに警戒エリアの拡大も懸念されたが、次に溝畑容疑者が発見されたのは最初の事件現場であった和大興業の事務所付近。30日夜、自転車に乗っている溝畑容疑者を見かけた同社従業員から通報があった。溝畑容疑者は、通報を受けて駆けつけたパトカーに発砲しながら逃走。同社事務所から徒歩1~2分に位置するアパート「たつみ荘」内に立てこもった。包囲を固めて説得を行う警察。報道陣のカメラに拳銃を向ける仕草を見せた溝畑容疑者。その様子はテレビで流され、全国に衝撃を与えた。そして立てこもり開始から18時間後、溝畑容疑者は自分の腹部を拳銃で撃って自殺した。

 実際に事件現場を訪れると、被害が拡大する可能性が極めて高かったことに気付かされた。周辺は住宅が密集するエリア。少し離れたところには工場地帯で車の通行量は多い。また、大型のパチンコ店もあり、人が密集するエリアであった。最初の発砲事件の後も、拳銃と多数の銃弾、覚せい剤を所持していたとされる溝畑容疑者が被害者を増やさなかったことは、まさに“不幸中の幸い”であった。

(つづく)
【山下 康太】

 
(中)

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