2024年11月22日( 金 )

石原都政の負の遺産と小池都知事の戦い(前)

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副島国家戦略研究所(SNSI) 中田 安彦 氏

 7月末の都知事選で圧勝した小池百合子都知事が、築地市場(中央区)の豊洲(江東区)への移転問題で、4期に渡って都知事を続けてきた石原慎太郎元都知事の責任を追求する姿勢を見せている。小泉元総理譲りの「劇場型政治」に頼る小池都知事に要求されるのは、現実的な落としどころ。小池都政が、民主党鳩山政権が米軍普天間飛行場(沖縄県・宜野湾市)移設問題で転落した陥穽に落ちることなく、いかにして「豊洲新市場移転問題」と「五輪施設問題」をクリアすることができるか。対応を誤れば瞬く間に窮地に陥るこの問題を、改めて考察する。

“抵抗勢力”を作り上げ、小池劇場旗揚げ成功

 地滑り的大勝利を達成した小池都知事が、就任当初の最大の課題にしたのが築地市場(中央区)の豊洲(江東区)への移転問題である。選挙戦中は、待機児童、防災対策、五輪問題、環境問題を中心に遊説し、この問題についてそれほど大きな比重を置いていなかった。しかしこの移転問題の背後に「都政の闇」が集約されていることに気づき、もともと過去に著作でこの移転問題を取り上げていたこともあって、知事就任後は「東京オリンピック」の開催費用の見直しの問題と、民主党政権時代から反対運動が沸き起こる中でも不透明なまま推進されてきたこの豊洲移転問題を、「東京大改革」の目玉として位置づけた。

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都民ファーストを訴えた小池氏の選挙ポスター

 この知事選に小池氏が出馬するきっかけになったのは、舛添前知事による政治資金の「公私混同問題」である。都政刷新を目指して出馬を表明した小池氏は自民党都連に対して推薦を求めたが、協力は得られず。「崖から飛び降りる覚悟」で、無所属で出馬した。ちなみに、この「崖から」の言葉は、かつて所属していた新進党の小沢一郎氏のアドバイスで「必要なときには風を起こせ」という意味だそうだ。対する自民党都連は石原伸晃都連会長と内田茂都連幹事長の連名で、議員(親族も含む)が、公認・推薦候補ではない候補を応援した場合は、「家族も含めて除名処分の対象になる」という露骨な恫喝文書を出したことで、都連の古い体質に反発が広がった。

 当選7回の長老であるこの内田都連幹事長が、「都議会のドン」として君臨してきた事実が都知事選のさなかに明らかになる。都議選の公認権を握り、石原・猪瀬・舛添の三代に渡って大きな影響力を維持してきたとされる内田氏に象徴された「抵抗勢力」にただ一人挑むジャンヌ・ダルクとして自分を演出し、自民党の公認候補である増田寛也元岩手県知事をぶっちぎりの差で破って当選した。

 この経緯からもわかるように、小池知事の政治手法は小泉純一郎元首相の「郵政民営化選挙」から学んでいることは明らかだ。あのとき小池氏本人も「抵抗勢力に対する刺客」として選挙戦を戦った。今回の都知事選では、都議会における「抵抗勢力」の象徴である内田氏に対抗する姿勢を明確に打ち出した。この「既成権力に対して立ち向かう姿」を演出するポピュリズムの手法は10年前の郵政選挙を彷彿とさせ、アベノミクスの停滞とマンネリ化した政治に対してうんざりしていた都民に爽快感を与えてくれた。

 ただ、ポピュリズムの手法で台頭した政治家は、肝心の統治の部分で抵抗勢力の壁を打ち破ることができずにあっという間に支持率を失うことも多い。その最たる例が、09年の政権交代によって誕生した民主党・鳩山由紀夫政権だろう。小池都知事が無事に東京五輪を迎えられるかどうかは、彼女の行政手腕がいかなる結果を都政に生み出すかにかかっていると言っても過言ではない。

豊洲問題は五輪と直結 「経路依存」を脱せるか

 豊洲問題での都民が納得する解決だけではなく、果たして肥大化する東京五輪の開催費用の節約を実現できるか、という問題もある。鳩山政権における普天間飛行場移設問題は、この問題の困難さを熟知してきたマスコミによって最大の政治課題に仕立て上げられたが、十数年かかって解決しなかった問題をわずか数カ月で解決できるはずもない。結局いわゆる「腹案」やいくつかの代替計画が議論される間もないまま、鳩山首相は辞任に追い込まれた。その背景には、外務省、防衛省、そしてアメリカ海兵隊という「抵抗勢力」の存在があった。「一度決まったことを見直すことはむずかしい」という官僚主義の壁が立ちはだかった格好だ。行政学の用語ではこれを「経路依存」という。経路依存したほうが、利害関係者にとって楽だし、大きな見直しに伴うエネルギーも必要がないからだ。

 そもそも小池都知事が背負い込んでいる豊洲と五輪の費用問題は、石原都知事とその任期に権力をつけてきた、内田前幹事長に象徴される都連にその責任があるというのが、彼女の認識だろう。その意味では、マスコミを味方につけて抵抗勢力の利権をあぶりだそうとする嗅覚は、さすが元キャスターというところがある。

 また一連の報道では、豊洲への築地の移転問題が、オリンピックに向けての道路問題(環状2号線)であり、そこには都政の抵抗勢力である都議や、「文教スポーツ族」として安倍政権とのパイプ役を担っている森喜朗元首相・東京五輪組織委員長の利権問題が絡んでいるとされている。

 しかし、その「悪の集団」である利権集団に対してやりたい放題にやらせる基盤を作らせたのは、猪瀬知事でもなく、舛添知事でもなく、4期に渡る長期政権を続けてきた石原都知事である。小池知事の言うように、長い間の石原都政でついてしまった「贅肉」を削ぎ落として、「肥満都市」である東京をスリムにするというのが、小池知事の都政改革の肝である。これも「構造改革」を主張した小泉元首相の手法から学んでいることだろう。

(つづく)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
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