初の女性大統領の誕生か?ヒラリー・クリントン:仮面の女王(2)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
ところで、日本との関係で何かと話題となっているのがTPP(環太平洋経済連携協定)を巡る態度の変化であろう。労働組合を支持母体とする民主党であるため、ヒラリーは国務長官時代にはその推進役であったのだが、突然の如く、「現時点のTPPには賛成できない」と態度を翻してしまった。その理由は簡単で、TPPがかつてのNAFTAと同様に国内産業の空洞化を加速し、アメリカ人の雇用が労賃の安い海外に流出する恐れがあるからだ。
民主党の支持基盤である労働組合をつなぎとめるためには、TPP反対は当然のポーズであろう。しかし、ヒラリーの本心は恐らく別のところにあるに違いない。それは彼女に莫大な政治資金を提供している金融や軍需産業、そして製薬、化学薬品業界などが潤うようにするためにはTPPをフルに活かす動きをするはずだ。特に、製薬メーカーにとって薬の特許期間を長く保つことはTPPにおける最大の狙いとなっている。
ヒラリーほど、表の仮面と裏の実像を使い分けるのに長けた政治家も稀だ。表向きは大衆の不満を吸い上げるポーズを取り、「1%の富裕層が99%の国民の富を吸い上げているような不平等社会はおかしい。1%の大金持ちへの課税を強化する」と訴える。しかし、現実にやっていることは、これら1%のトップエリートから莫大な資金提供を受け、彼らの事業を税制面で優遇することばかりである。ウィキリークスが暴露したメールを読めば、ヒラリーがいかに大企業の幹部と意気投合しているかが歴然とする。
しかも、イランからアフガニスタン、そしてリビアやシリアに至るまで、アメリカ軍の介入を推進し、軍需産業のビジネス支援に邁進してきたわけで、根っからの「軍事ビジネス支援者」に他ならない。ヒラリーへの政治献金リストの上位には常にロッキード・マーチン、ノースロップ・グラマン、レイセオン、ボーイングなど、軍産複合体企業が名前を連ねているのも頷けよう。
何しろ、ヒラリーの戦争志向は筋金入りだ。サダム・フセインの首のすげ替えのための軍事作戦に最初に同意したのは上院議員時代のヒラリーだった。アフガニスタンへの進攻もそうだった。ファーストレディ時代には夫に進言し、ユーゴスラビアへの空爆を実行。国務長官としてはリビアのカダフィ政権の転覆に係わり、シリアのアサド政権を打倒するためのドローン爆撃を推進した。
先に述べた「結婚生活における最大の危機」に直面していた折ですら、ヒラリーはアフガニスタンのオサマ・ビンラディンの訓練キャンプに対する巡航ミサイル攻撃が失敗し、数時間のすれ違いでビンラディンを殺害できなかったことを悔やんでいた。とにかく好戦的なヒラリーである。
そのためか、彼女が国務長官の時代にはアメリカが武器の供与を行った国の数は急増した。その金額たるや1,650億ドルに達する。実は、こうした20を超える国々からは事前にクリントン財団に多額の献金が行われていたのである。しかも、国防総省が行った別口の16の国々への武器の供与にもヒラリーは関与していた。その額は1,510億ドル。その売却にも国務省の承認が必要であったため、こうした国々の政府はこぞってクリントン財団に寄付をしたのであろう。
自らが夫と立ち上げた財団を巧妙に隠れ蓑に使い、海外から多額な寄付を集めた才覚は天才的と言わざるを得ない。こうした点がテレビ討論会では全く触れられなかったのは不思議である。
もちろん、アメリカという国家は「戦争こそ最大のビジネス」と割り切っているから、さして問題とならなかったのかも知れない。言い換えれば、こうしたアメリカの特性を知りつくした上で、ヒラリーもトランプも同じ感覚で「政治ビジネスというゲーム」を楽しんいるのだろうか。なぜなら、事あるごとに同じような発言を繰り返すからだ。
トランプ曰く「自分が大統領になれば、継続中の戦争はすべて勝利に導いてみせる。皆が勝利に飽きるくらいになるだろう。1776年から歴代のアメリカ大統領は戦争に心血を注いできた。独立以来、214年の間、アメリカが戦争をしなかったのは21年間だけだ。平和と繁栄は関係ない。戦争こそが繁栄をもたらす」。
一方のヒラリーは「核兵器の使用にも前向きだった」といわれるほど。彼女に言わせれば、「核の使用は平和維持のための抑止力」ということになる。ロシア、中国、イラン、北朝鮮をあからさまに敵視する発言も平気で繰り返す。こうした好戦的な姿勢を有権者はどう評価するのであろうか。残念ながら、この点も討論会では話題にならなかった。オバマ大統領があまりに優柔不断で、ロシアのプーチン大統領からもこけにされることが多いことも、ヒラリーの強硬姿勢に影響しているのかも知れない。(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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