国際未来科学研究所
代表 浜田和幸
高市首相は大型バイクへの深い愛着を公言していることで知られますが、首相就任以降、自動運転政策においては「産業競争力および国家投資のゲームチェンジャー」として極めて高く位置付け、強力な推進姿勢を打ち出しています。
高市政権が掲げる自動運転政策の3本柱
高市首相は自身の「バイク好き」という個人的嗜好とは切り離し、日本の基幹産業を守るための国策として自動運転を捉えているわけです。目玉政策は次の3点になります。
① 戦略17分野に「自動運転」を指定、8.2兆円の官民投資を推進
26年6月に発表された高市政権の成長戦略「戦略17分野・62品目の投資促進策」において、「自動運転技術」を重要分野の1つに指定し、総額8.2兆円規模の官民投資を推進する方針を明示。
さらに、自動運転の頭脳となるAI分野でも「フィジカルAI(ロボットや自動運転車を動かすAI)」に対して101.6兆円の投資を掲げており、自動運転大国へ向けた予算的裏付けを強化。
② 「2030年度に1万台導入」の閣議決定
高市内閣は26年に入り、「30年度までに国内で運行する自動運転のバス、タクシー、トラックを1万台規模にする」という具体的な数値目標を含む計画を閣議決定。
地方の「交通空白地域」を29年までに新技術(自動運転やドローン)を用いて解消するという強い必達目標を打ち出しています。
③ ライドシェアには慎重だが、自動運転には積極的
高市首相は「安全性の懸念」からライドシェア(一般ドライバーによる自家用車での有償送迎)の全面解禁には一貫して慎重な姿勢を見せる一方、「運行管理や車両の安全基準が法的に担保される自動運転サービスの拡充」については、人手不足や交通空白を解決する本命として、むしろ政策の優先度を上げて取り組んでいます。
高市政権の成長戦略の柱である「戦略17分野」において、自動運転技術は「交通事故削減や深刻な物流不足を解消する最重要領域」に位置付けられています。もちろん、安全性の確保は大前提で、規制についての検討も加速しています。
省庁横断で進む「AI時代」の規制改革
直近の各省庁による議論は以下の通りです。
デジタル庁・経産省・国交省・警察庁が合同で設置した「AI時代における自動運転車の社会的ルールの在り方検討サブワーキンググループ(SWG)」において、AIプログラムが道路交通法を正しく理解し遵守できるよう、法律自体をプログラムが読みやすいデータに翻訳(機械可読化)する議論が進められています。
これまでは監視者1人が1台〜数台を監視していましたが、採算性を確保するため、1人で10台以上の車両を同時に遠隔監視(1対N)できる技術的・法的な基準づくりが進んでいるわけです。
デジタル庁が主導し、 27年度のレベル4サービス実現に向けて全国13の「先行的事業化地域」を選定。ここに国交省の「路車協調システム(道路側にセンサーを置く)」や総務省のV2X通信予算を一挙に集中させ、省庁横断でビジネスを成立させる議論が結実しています。
このように、かつては安全確保を重視する警察庁・国交省と、推進を急ぐ経産省との間でスタンスの違いが見られましたが、現在は「デジタル庁がハブとなり、地方の交通維持と産業競争力強化という共通目標に向けて、AI時代に即したスピード感のある規制見直しを行う」という強力な協調体制へと進化しています。
自動運転、社会実装の段階へ
加えて、自動運転車の車種別の現状と未来像は以下の通りです。
① 無人タクシー:都市部の利便性向上と「地方の交通難民」の救済
都市部(横浜みなとみらい等)では日産やホンダなどが26年後半以降に実証・商用化を予定している「ロボタクシー」が走り、スマートフォンの配車アプリと連動した効率的な都市移動を提供します。
地方や過疎地においては、一般の自家用車を使った「公共ライドシェア」の延長として、高齢者がドア・ツー・ドアで病院やスーパーに行ける自動巡回サービスを構築。移動需要の掘り起こしによる地域経済の活性化を狙います。
② 無人トラック:ドライバー不足問題を解決する高速物流
新東名高速道路などの一部区間に「自動運転車優先・専用レーン」を設置。関東(東京)〜関西(大阪)の長距離幹線輸送(ラインハウル)において、深夜に完全無人の自動運転トラックが隊列を組んで、または単独で自動巡航する物流網を構築します。
深刻なドライバー不足による物流の停滞を解消し、日本の製造業のサプライチェーンを維持します。また、東北から九州への高速道路の延伸も検討されています。
③ 無人バス:路線バス廃止に歯止めをかける、地域の命綱インフラ
福井県永平寺町で国内初のレベル4公道走行を達成したような小型自動運転カートやバスの仕組みを全国展開します。あらかじめ設定された固定ルートや、廃線になった鉄道敷などを活用した専用道を、時速20km前後の安全な低速で完全自動運行する計画です。
運転手不足による路線バスの減便・廃止に直面する地方自治体のコストを劇的に下げ、持続可能な公共交通を維持します。
以上述べたように、日本政府の自動運転戦略は、単に「技術の先進性を競う」だけでなく、「省庁の縦割りを排し、各省が安全・法律・ビジネス・通信の面からスクラムを組み、少子高齢化という日本の最大の弱点を強みに変える産業支援」として設計されています。克服すべき課題は数多く残っていますが、産業支援と規制のバランスを取りつつ、未来の自動運転社会の実現に各省庁が連携する動きが加速しているのが現状です。
(了)
浜田和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月自民党を離党、無所属で総務大臣政務官に就任し震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。著作に『イーロン・マスク 次の標的』(祥伝社)、『封印されたノストラダムス』(ビジネス社)など。









