2024年11月18日( 月 )

危険信号の朝鮮半島、地に落ちた韓国政権に打つ手はあるのか?

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 韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領の支持率は、週明けの1日、ソウル地域で8.3%まで急落した。韓国における「権力の崩壊」は、予断を許さない状況である。隣国の「そこにある危機」だ。政権の選択肢は限られたまま、大地震の後の権力液状化は、深刻になるばかりだ。私が常々考えている「韓国政治のテーゼ」を列挙しつつ、韓国の論客による「対処策」を紹介したい。

テーゼ(1)韓国政治は週末に動く

 先週、韓国は最大級の“激震”に揺さぶられた。

korea1 24日(月)、ケーブルテレビ局JTBCは、大統領の長年の親友である女性・崔順実(チェ・スンシル)氏が、大統領の演説など機密書類を事前に入手していたことをすっぱ抜いた。崔氏が廃棄したパソコンの現物を入手し、そのデータを公開したのだから、これ以上の証拠はない。
 朴大統領は翌日の25日(火)、この事実を認めて国民の前に謝罪した。26日(水)には、検察が崔氏の自宅等を捜索。韓国メディアは、外交資料も漏洩したと追い打ちを駈けた。28日(金)、朴大統領は首席秘書全員に辞表を提出させた。私が前回記事「大丈夫か、韓国!?」を出稿したのは、この時点だ。

 韓国政局は週末に動いた。29日(土)、ソウル中心部は2万人のデモ隊であふれた。これは予想された動きだったが、韓国検察が青瓦台(大統領官邸)の家宅捜索をするという急速な行動に出た。大統領としては「飼い犬に手を噛まれた」心境だろう。朴大統領は資料を検察当局に提供し、首席秘書官らは辞任したが、「水に落ちた犬」は撃たれるのが、韓国の政治風土である。今後の展望は、不透明というしかない。

 保守派の論客・柳根一氏は1日の朝鮮日報に、コラム「悪魔払い(エクソシスト)を呼ぶ時局」を書いた。

 <朴槿恵大統領は、最悪の事態を設定する必要がある。政権が崩れるのは、そんなに難しいことではない。(1960年の)自由党政権、(朴正煕の)維新政権、(全斗煥の)5公政権も臨界点に近づくと、瞬時に崩壊する。ネクタイ部隊、市場の商人、一般市民まで敵に回すと、政権は右往左往する。そのような兆しがすでに見られる。国民情緒が爆発すると、地滑りを防ぎようがない>

 つまり、韓国政治が週末に動くのは、韓国は相変わらずのデモ社会だからである。

テーゼ(2)韓国政治の悪弊「側近政治」

 今回の事態を最も正確に予測していたのは、駐韓米国大使館の秘密報告だ。

 2007年7月16日、スタントン駐韓米国副大使(当時)は機密報告書を本国に送付した。
 機密報告は「カリスマ性のある崔太敏氏は、若い朴槿恵氏の身心を完全に支配していた。その結果、崔太敏氏の子息が莫大な富を蓄積したといううわさが広まっている」と記載した。崔太敏とは今回のスキャンダルで浮上した崔順実氏の父親だ。つまり、韓国政治の悪弊である「側近政治」を10年以上も昔から指摘してきたのだ。驚くことに報告書は、朴氏と崔太敏氏について「特別な関係」と明記しているのだ。

 「月刊朝鮮」編集長を務めた趙甲済氏は28日付けのコラムで、以下のように朴大統領に「指南」した。

 <これからどうすべきか。時間が足りない状況で、朴大統領が選択できる手段は多くない。真実の究明が最善の活路だ。優先順位で見れば、まず第1、崔順実を早く帰国させて捜査に協力するようにする。第2、私も捜査に応じると宣言する。第3、青瓦台秘書室を一新する。第4、セヌリ党を離党する。第5、これからは国務総理に日常的行政を任せ、自分は経済回復、北核への対処、大統領選挙の公正管理に専念すると宣言する。第6、下野はしないことを明確にする>

 以上である。朴大統領はこのうち1~3を実行したことになる。しかし、これで激動を始めた大地震政局が安定するはずがない。

テーゼ(3)北朝鮮の動向は?

 韓国政局の動向を、背後操縦しているのが北朝鮮であることも念頭に置いていた方がいい。実は、今回の事態を的確に「予言」していたのが、北朝鮮の報道機関だったのだ。

 【平壌10月23日発朝鮮中央通信】青瓦台悪女である朴槿恵の同族対決ヒステリーが極に達した。(中略)いつ死ぬかも知れない屍同様の老いぼれ女が、口で何を言っているのかも知らずに、やたらに悪口を言い散らすのを見ると、**病者であるのが確かだ。

 日本のマスコミでは、差別用語である部分は「**」の伏せ字にしておくが、先週末のソウルのデモで、同様な悪罵が現職大統領に投げつけられたのを、我々は韓国のマスコミ報道から知っている。

 再び、趙甲済氏の明察を紹介して、本稿を終えたい。

 <今は、問題が民主的制度・装置の中にとどまっている。メディアと国会が状況を主導している。だが、もし扇動勢力が介入して、場外集会を始めれば問題はもっと複雑になる。狂牛病乱動のような事態が再燃すれば、警察による鎮圧が不可能になるかもしれない。国民の支持がなければ、警察も持ちこたえられない。示威隊が青瓦台を包囲し、警察が無力化されれば、大統領は、下野か戒厳令か、の選択の岐路に立つかも知れない。どちらも韓国民主主義の危機だ>

 我々日本人は、韓国がそういう危機にあることを認識しておくべきだ。

<プロフィール>
shimokawa下川 正晴(しもかわ・まさはる)
1949年鹿児島県生まれ。毎日新聞ソウル、バンコク支局長、論説委員、韓国外国語大学客員教授、大分県立芸術文化短期大学教授(マスメディア論、現代韓国論)を歴任。国民大学、檀国大学(ソウル)特別研究員。日本記者クラブ会員。
メールアドレス:simokawa@cba.att.ne.jp

 

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