シリーズ・金融機関淘汰の時代がやって来た(7)~暴露本『住友銀行秘史』をめぐるざわめき
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『住友銀行秘史』(講談社)は、現代の奇書というべき暴露本である。著者は元住友銀行取締役の國重惇史氏。戦後最大の経済事件であるイトマン事件の舞台裏を描いた同書は売れており、「下半期最大のベストセラー」との呼び声が高い。なぜ、四半世紀も経った今に告発したのか――。
聞こえてくるのは、スキャンダルな話ばかり。國重氏が社長に転身した東証マザーズの(株)リミックスポイントは、いわくつきの問題企業として槍玉に挙がる。身から出た錆、女性問題で資金繰りは火の車という説
國重氏は〈70歳になったのを機に、あの事件を語れる人間の一人として記録を残しておくのも、自分に与えられた役割ではないかと考えるようになった〉と執筆の動機を記している。だが、額面通り受け取る向きは皆無。「カネに困っていた」というのが、関係者の一致した見方だ。
國重氏は2014年4月22日、楽天副会長を辞任した。『週刊新潮』(5月1日号)に、都内在住の専業主婦とのダブル不倫が報じられたからだ。三角関係は破局。ダブル不倫の2人への賠償問題、仮面夫婦と報じられた妻との離婚訴訟が泥沼化。赤坂に所有していた高級マンションを差し押さえられるなど、資金繰りはピンチだという。
そこで、〈墓場までいくつもりだった〉話を暴露本にまとめて、カネを稼ぐことにしたというわけだ。この手の情報は、元住友銀行OBサイドからもたらされているのだろう。
『秘史』には、住友銀行幹部たちに対する辛辣な人物評が随所に出てくる。〈各役員たちについてのコメント。
玉井(英二)副頭取・・・遊び好き。閥を作る。
峯岡(弘)副頭取・・・逃げたがる。
秋津(裕哉)専務・・・抽象論多い。
臼井(孝之)専務・・・論外。〉こうも書く。
〈皆、自分のことしか考えていない。いかに自分が安全地帯に逃れるか。そのぶん人を蹴落としてでも、自分だけが逃げおおせるか。それに血道をあげはじめる〉
その一方で、自分だけが孤軍奮闘したと自慢たらしく書く。
〈私は、自分が関わらなければ、住銀はもっとイトマンに貸し込み、損失が増えたと思っている。私が関わったから、5,000億円程度で済んだのだと〉。住銀OBたちは、さぞや鼻白んだに違いない。
リミックスポイントは「ハコ企業」の代表銘柄だ
國重惇史氏は15年6月26日、東証マザーズ上場のリミックスポイントの代表取締役会長(現・社長)に就任した。國重氏の転身は、住銀OBたちを呆気にさせた。「貧すれば鈍する」というが、天下の住銀の取締役だった人物が、落ちるところまで落ちたという驚きだ。
リミックスポイントは、「ハコ企業」として知られる銘柄であったからだ。ハコ企業とは、仕手筋やいかがわしい投資ファンドが上場企業を乗っ取って、これを器(=箱)として、怪しげな増資と提携をぶち上げて株価を釣り上げ、一般投資家のカネを巻き上げるのが手口だ。リミックスポイントは04年に業務用ソフトウェア開発のベンチャー企業として設立。06年に東証マザーズに上場した。だが、業績が悪化。09年に新たな株主が入り経営陣に入ったが、それは多額の資金流用事件を引き起こした人脈。その後、事件師たちの間で、リミックスポイントは転がされ、株主は頻繁に入れ替った。
リミックスポイントは14年9月、新電力の日本ロジテック協同組合と業務提携。成長著しい新電力との提携という“提灯”が付いたリミックスポイント株は、急騰した。日本ロジテック協同組合にはハコ企業が総結集。アングラ人種の餌食になった日本ロジテック協同組合は、16年4月15日、負債163億円を抱えて破産宣告を受けた。
リミックスポイントの株主は再び交代。國重氏がトップにスカウトされた。錬金術のカードは、仮想通貨のビットコイン。16年5月27日、ビットコイン等仮想通貨取引所サイトを開設。同6月23日、香港の投資ファンドを引受先とする企業第三者割当増資で、25億円の資金を調達した。
アングラ情報に強い高橋篤史氏は、『経済禁忌録』(ビジネスジャーナル16年3月3日付)で、リミックスポイントの闇を描いている。〈現在、リミックスポイントに少なからぬ影響力を持っているのは「ダイマジン・グローバル」なる香港法人だとされる。その背後に控えているのは安愚楽牧場の破綻劇に深く関わった人脈と見られている。安愚楽牧場は和牛委託商法で投資家から4,000億円超を集めたものの11年に行き詰まり、その破綻は社会問題化した〉
國重氏は怪しげな人脈と組み、ビットコインを餌にマネーゲームに精を出すわけだ。
イトマン事件の主役・伊藤氏みたいな人とのお墨付き
國重氏は、“事件師”の臭いを漂わせている人物のようだ。『秘史』で、こう書く。
〈T弁護士から私に電話がかかってきた。「ねえねえ、伊藤寿永光って知っている?」
私は「誰、それ?」と答えた。この時点では私もまだ彼のことを知らなかったのだ。
T弁護士は、「あんたみたいな人だよ」「え!」「一見さわやかなんだけど・・・」(中略)
これが私が初めて伊藤寿永光氏の名前を聞いたときだった。あんたみたいな人・・・。この言葉が、伊藤氏の名前を私の脳裏に深く刻み込んだのだった。〉
伊藤寿永光氏とは、イトマン事件の主役だ。イトマンの河村良彦社長を抱き込んだ伊藤氏は、次に住友銀行のドンと言われた磯田一郎会長を籠絡する。イトマンにいた1年半のあいだに、磯田邸を67回訪問したと豪語した。希代の“人たらし”である。
「T弁護士」とは、田中森一弁護士のこと。「闇社会の守護神」と呼ばれ、伊藤氏の顧問弁護士を務めた。バブルの怪人たちと深い付き合いがあった田中弁護士が、國重氏を指して「伊藤永光氏みたいな人」とお墨付きを与えたのだ。人物像は大方察しがつく。
國重氏は、こんな裏話を披露する。〈巽(外夫)頭取と飯を食ったときのことだ。
「僕はヤクザ情報とかに強いんですよね」
そう言うと、こう返された。
「そんなのに強い人なんて、頭取になる必要はないんだよ」〉ヤクザに強いことがバンカーの規範に外れているとして、体よく銀行から出された。
國重氏は、経済事件史を彩るリミックスポイントの社長に就いた。堅物なバンカーの転職先とは言えない。國重氏は、『秘史』で自画像をこう描く。〈乱世の英雄という言葉がある。乱世のときには生き生きとして仕事をする。しかし、平和な世の中では、その存在を必要とされない。私もこれに似ていたかもしれない〉
國重氏が危険な人脈が蝟集するリミックスポイントの社長に転じたことは、江戸期の田沼意次時代を懐かしむ狂歌の心境かと思った。
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