理想的なポスト・グローバル化によって、国家と個人を幸せな時代へ向かわせる(前)
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第二次世界大戦の敗戦を経て、軍国主義への反省から、現代国家としての日本はかたちづくられてきた。しかし冷戦構造の崩壊により、資本主義と社会主義という二項対立が立ち行かなくなり、世界は混沌のなかでもがいているようにも見える。こうした現代の状況において、個人は国家とどのように向き合い、共にどのような道を進むべきなのか――。政治学者で、九州大学大学院比較文化研究院の施光恒准教授に聞いた。
(取材日:2016年8月19日)
グローバルな企業や投資家が国家に強い影響力
――現代における国家と個人の関係性を、どのように捉えていますか。
施光恒准教授(以下、施) 最大の問題は、グローバルな企業や投資家が非常に大きな力を持ち、各国の政府に影響をおよぼすようになったことです。これにより、国民一般の声が国家に届きにくくなり、生活が脅かされています。「国家 対 個人」という対立図式は古いと思います。今は、国家、個人、グローバルな企業や投資家という三者の図式で考えるべきです。
なぜ、こうなったのか――。それは、1980年代後半から90年代にかけて世界的に規制緩和が進み、資本の国際的移動が自由になっていったためです。その結果、各国政府はグローバルな企業や投資家に有利な政策を取るようになりました。そうしなければ、国内資本が海外に流出してしまいますし、海外の資本も国内に入ってこなくなってしまうからです。グローバル化以降の各国政府は、自国民ではなく、グローバルな企業や投資家の意向に過剰に配慮するようになってしまったのです。とくに日本では、その傾向がここ10年くらいで非常に顕著になってきました。
例を挙げれば、消費税を上げると言いながら、法人税率は引き下げようとしています。また、労働者の権利を削減する動きが目立ちます。非正規雇用の常態化や解雇規制の緩和などです。「国際競争力」向上には、人件費を切り下げるのが一番効果的なんですね。年金積立金の株式運用も株価が確実に上がりますので、外国人投資家には受けが良い。ほかにも外国人労働者の受け入れなど、一昔前ならとても決まらなかったような奇妙な政策が、どんどん実現してしまうのが今の日本です。労働と資本のバランスでは、資本の側に偏ってしまっているのが現状です。
――今のお話は、日本だけの特殊な状況なのでしょうか。米国や欧州はどうなのでしょう。
施 これは世界的な傾向です。英国のEU離脱は、まさにこの流れですね。日本はEUを理想化していますが、実はEUには福祉国家だった欧州各国を新自由主義の共通市場にしようとしている面があります。この傾向が、英国のEU離脱の可否を問う国民投票にも顕著に現れていました。残留に賛成したのは大都市に住む高学歴、高収入の人たち、つまりグローバル化の勝ち組でした。これに対し、離脱派は低学歴、低収入で地方都市在住の、いわゆる普通の英国人が多かったのです。
米大統領選も似たような構図です。民主党予備選挙で非主流派のサンダース候補が強かったのも、今の米国は格差が広がり、既存政党が民意をまとめ切れなくなったからです。共和党では、トランプ候補の基本理念は「アメリカ・ファースト」ですが、演説のなかで「オーディナリー・ピープル」、つまり普通の人々という言葉をよく使っています。米国の一般国民のための政治をやると強調しているんですよね。また、サンダース、トランプともにやり方は両極端ですが、ウォール街から政治献金を受けない、グローバルな企業や投資家からカネをもらわない政治をやろうとして、それが米国民に受けているのです。ですから実は、英国のEU離脱や米大統領選のトランプ現象は、ポスト・グローバル化に向かう流れではないかと思っています。
(つづく)
【平古場 豪】<プロフィール>
施 光恒(せ・てるひさ)
1971年福岡市生まれ。九州大大学院比較社会文化研究院准教授。専門は政治理論、政治哲学。
慶応大学大学院博士課程修了。博士(法学)。
著書に「リベラリズムの再生―可謬主義による政治理論」「英語化は愚民化」などがある。
「資本の国際的移動を規制が、理想的なポスト・グローバル化へ向かう道」と話す施准教授。関連キーワード
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