2024年11月24日( 日 )

「一期一会」の精神で水産仲卸業界トップへ

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(株)アキラ水産

『ほとめき』(おもてなし)」が広げた人脈

柳橋連合市場の隆盛を支えた明百貨店<

柳橋連合市場の隆盛を支えた明百貨店

 「博多の冠婚葬祭で『アキラ水産』の花輪が上がらぬ日はない」と評されるほど代表の安部泰宏氏は人付き合いを大事にする。原点となっているのが、父・篤助氏の「金を包むなら花を上げれ」という教えだ。篤助氏は祖父栄次郎氏と伯父の明氏とともに起業した「明百貨店」で従業員200名の陣頭指揮を取ったやり手。「家の玄関に立った人はすべてお客様」をモットーとした人物だ。営業マンから借金の相談まで文字通り誰にでもドアを開きお茶を提供した。事業で成功した後も「どんな境遇の人でも平等に扱い終生人を見下すことがなかった」(安部社長)。

 なにより「ほとめく」ことが好きだった。博多弁で「おもてなし」を意味する言葉通り、宴席の寿司盛りを提供する際も自身は鉄火巻きに軽く口をつける程度。マグロなど高価なニギリ寿司は食べたふりをしてお客さまに振る舞った。「人の喜ぶ顔を見るのがなにより好きな人だった」のだ。山笠と放生会で例年欠かさず奉納するのは祭り好きだった篤助氏への手向けの意味もある。残念なことに篤助氏は自らのルーツを語らなかった。祖父の代のわずかな手がかりを元に父方は朝倉市山田に逃げ延びた平泉安倍一族の末裔、母方の源流は玄洋社の高場乱に繋がることを突き止め、朝倉で朽ち果てていた先祖の墓所を整備して冥福を祈った。

利益を追わずリーディングカンパニーへ

 篤助氏は安部社長が高校を卒業すると今後の覚悟を問うた。「給料取りになったら一生分の所得は決まる。商売人は自分の実力次第。」幼少から父の背中を見て育った安部社長は瞬時に商売の道を選んだ。喜んだ篤助氏は「人間の値打ちは18歳から22歳までの生き方で決まる」と翌日には安部氏を丁稚奉公に出した。商売のイロハを習うかわりに「給料なし」、店休日であっても冷蔵庫を掃除する「休みなし」の生活を2年間続けた。

 修行を終えた安部氏は小売業から仲卸業への進出を決断する。魚市場開設から5年後。すでに多くの仲卸が商権を確立しており安部氏は最も後発で最も小さな売場からのスタートだった。それでも「仕入れができなければお客さまが困る」と顧客第一の精神を貫きセリに挑み続けた。利益追求せずに薄利多売に徹した。気が付けばアキラ水産に頼めば確実に魚を供給してくれるという信頼を勝ち取り地場水産仲卸業界のリーディングカンパニーに飛躍していた。この間、さまざまな出会いによって人脈が広がっていったがビジネスに利用しなかった。「そもそも卸売業の当社は利用できない」と笑いとばす。それでも「いろいろな人から引き上げられたことで今の自分がある」と出会いを重要視する。駆け出しの経営者だった頃、先輩に「一本締め」の指名を受けて数十年。現在では福岡商工会議所の副会頭や全国水産物卸組合連合会副会長など数多くの公職を兼務する安部氏の「博多一本締め」が宴席や会合での博多名物となっている。まもなく創業100年を迎えるアキラ水産。後に続く人たちには安部氏天性の勝負勘を引き継ぐことはできないかも知れないが、原点である「一期一会」の経営は続けてほしいと願っている。

【鹿島 譲二】

<COMPANY INFORMATION>
代 表:安部 泰宏
所在地:福岡市中央区長浜3-11-3-711
設 立:1960年4月
資本金:2,000万円
TEL:092-711-6601
URL:http://www.akirasuisan.co.jp

 

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