ドナルド・トランプ新大統領の閣僚人事のキーマンは誰か(後)
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副島国家戦略研究所・中田安彦
日本にとって最も重要で影響を及ぼすのは、外交政策チームの人事だ。すでにフリン国家安全保障担当補佐官とポンペオCIA長官、国防長官には元中央軍司令官でイスラム原理派に対する強硬姿勢から「狂犬」の異名を持つジェームズ・マティスが指名されており、国土安全保障局長官には、中南米地域を担当範囲とするアメリカ南方軍司令官だったジョン・ケリー(奇しくも今の国務長官と同姓同名、ただしケリーの綴りが違う)を指名している。外交・安保政策チームに元軍人が多いことやゴールドマン・サックスのOBが経済チームに目立つことから、「ニューヨーク・タイムズ」は「G&G(ジェネラル=将軍とゴールドマン・サックス)内閣」だと揶揄する民主党上院議員の声を伝えている。外交政策チームはトランプの意向を反映してか、イスラム原理主義テロ対策(中東政策)と国境警備(南米からの麻薬流入阻止のための中南米諸国に対するテコ入れ)に力点が置かれるだろうと予想されるが、これは実はレーガン政権によく似ている。レーガン政権はブッシュ政権やオバマ政権のように軍事介入には積極的ではなかった。国土防衛の観点からロシアと協調してのISIS殲滅作戦などは継続されるだろう。
重要なポイントは、オバマ政権が締結したイランとの核開発停止の合意をトランプ政権が破棄するかどうかだ。シリアとイランはロシアのプーチン大統領の庇護を受けているが、イラン合意を破棄すれば中東情勢はまた流動化してしまい、それはロシアの望むところではない。トランプが軍人を好んで起用するのは、実際に戦場を知っている軍の指揮官であれば、無謀な作戦は立てないとの考えだろう。国土安全保障局長に指名されたケリーは、息子をアフガンで亡くしている。アフガン・イラク戦争でアメリカは数千人にも及ぶ戦死者、加えて帰還兵の度重なるPTSDによる自殺を経験している。インテリのネオコン派主導の無謀な介入戦争はコリゴリという国民の思いがトランプ勝利の要素の一つであったことが、新政権の人事に大きな影響を与えている。
残るは国務長官の人選だけが決定を待っている。現在が10人ほどの候補が浮上している。トランプが最も時間をかけている人事である。候補者も、ネオコン派のジョン・ボルトン元国連大使から、トランプ批判の急先鋒だったミット・ロムニー、ヒラリーに近かった元CIA長官のデイヴィッド・ペトレイアス、ボブ・コーカー上院外交委員長、選挙でトランプを応援した元ニューヨーク市長のルディ・ジュリアーニ(注:10日に指名候補から辞退したと報じられた)、果てには石油メジャー、エクソン・モービルのレックス・ティラーソンCEO(プーチン大統領と親しい)らの名前が上がっている。トランプは閣僚人事について「ファイナリストの名前を知っているのは自分だけだ」とツイッターで書いている。オバマ政権では予備選挙で戦ったヒラリーを国務長官に起用したことが、「チーム・オブ・ライヴァルズ」だと言われたものだが、オバマ政権の外交はタカ派だったヒラリーを引き入れたことで失敗したようなものだ。だからトランプはこの人事に慎重を期しているのである。
(了)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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