安倍・トランプ「ゴルフ外交」は「神武以来の朝貢外交」か?(2)
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SNSI・副島国家戦略研究所 中田安彦
これを3つのキーワードで私は解説したいと思う。(1)「マッドマン・セオリー」(2)ディール外交(社長決済)(3)「オフショア・バランシング」である。
(1)の「マッドマン・セオリー」というのは、ニクソン大統領の外交姿勢を表す言葉で、もともとはマキャヴェリの「君主論」にある「狂気を擬似的に作り出すというのは賢いやり方だ」という内容から来ている。ニクソンはソビエト共産主義に対して、「自分がいざとなったら何をするかわからない人間である」と思い込ませることで、相手を撹乱し、交渉において有利にたとうとしている、というのである。このセオリーの命名者は、ニクソンの首席補佐官だったハルデマンである。つまり、意図的に混乱を作り出し、相手に自分の手の内を予測させない、そのことによって自らが交渉において有利になろうという戦術である。
トランプは就任式前から自動車メーカーや米国の空調メーカーの雇用流出を伴う工場の海外移転をツイッターで激しく批判し、大統領就任後も選挙期間と同じように、メキシコの大統領には「国境の壁の代金を支払わせる」と叫び、同国との話し合いがうまくいかないと首脳会談を中止したりもした。また、同盟国である豪州のターブル首相に対しても電話会談で、オバマ政権時代に約束した豪州に一時的に止め置かれているアメリカ入国を希望する難民の話が出た途端、電話を切って会談を終わらせるといった、「狂気」を思わせる行動が目立った。そのような何をするか分からない大統領という印象がある中で、日米首脳会談のスケジュールが組まれていったのである。
安倍政権は、日米首脳会談で自動車や為替絡みの強い要求が出るのではないかと戦々恐々としていた。そこで、日米首脳会談ではなんとしてもトランプを激昂させないようにしなければならないと、相当な規模のお土産を持参することになった。それが、「インフラ投資で米国で70万人の雇用創出」といった提案であり、GPIF(年金基金)を通じて米国のインフラ投資を行うといった「生煮えの提案」の数々だっただろう。
これはインフラへの投資などで4,500億ドル(約51兆円)の市場を創出するということで、必ずしも51兆円を貢ぐという話ではないが、数字というのは独り歩きするものだ。51兆円という数字はロシアに対する3,000億円の経済協力に比べると桁違いにでかい。安倍首相のブレーンの一人である葛西敬之・JR東海名誉会長が長年売り込んできた高速鉄道がインフラ投資の中心になるようだが、民主国であるアメリカでは競争入札も行われるだろうし、バイアメリカンを唱えるトランプ政権では建設資材もアメリカ産になるかもしれない。更に言えば、共和党は長年、このような高速鉄道のような財政支出を伴う投資には及び腰だったこともあり、高速鉄道が本当にうまくいくか分からない。何しろアメリカは広大で、車社会、飛行機社会だからだ。
それに、「アメリカ・ファースト」を唱えるトランプ政権が国内の投資に力を入れるのは当然だが、安倍政権は「ジャパン・ファースト」ではなくやっぱり「アメリカ・ファースト」でこれほどの巨額のカネを外国に突っ込むというのは、筋が通らない。そのような提案をしたことで得られたのは、これまで何回も表明されてきた「尖閣に対する日米安保の適用の再確認」程度の話で、米軍駐留費の負担「軽減」の言質もトランプからは取れなかった。朝日新聞が書いているが、このような安倍首相の姿勢に対しては、首相周辺からも「朝貢外交さながら」であるという批判が出ている。
なお、安倍首相が首脳会談に及んだ10日は、日本では2月11日にあたり、「建国記念の日」である。2月11日の日付は、日本書紀で神武天皇が即位したとされる紀元前60年元旦(旧暦)の月日を、明治に入り新暦に換算したものであるのだが、そのような保守派にとってめでたい日に、安倍首相は巨額のカネをアメリカに貢ぐというのだから倒錯している。まさに安倍首相は「神武以来(じんむこのかた)の売国政治家」といったところではないか。
安倍首相は巨額の経済パッケージを持参して訪米したわけだが、意地悪い見方をすれば、そんな「上客」にならあそこまでの厚遇をするのは当たり前だ。高級キャバレーは、田舎紳士にカネをつぎ込ませるために、最初はナンバーワンを接待につけるというのと同じだ。問題はこの約束を守れなくなったときで、その時はトランプは豹変するだろう。北朝鮮のミサイル実験の際にトランプが「アメリカは100%日本の側に立つ」と発言したことも、裏を返せば「アメリカがテロに襲われたときは日本も100%の支持をしろ」という要求にしか見えない。
また、「日米成長雇用イニシアチブ」という名前も、かつての「年次改革要望書」の正式名称である「日米規制改革および競争政策イニシアチブ」を連想させる。安倍政権はTPPにこだわると言い続けてきたが、トランプが大統領令に署名して本当にTPPを葬り去ったあとは、あっけなく「二国間FTA(自由貿易交渉)」の路線にかじを切った。この二国間の交渉は、TPPのようにクッションとなる他の交渉国がいないので、日本は相当に米国に譲歩を迫られるとも言われている。
(つづく)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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