2024年11月22日( 金 )

「笑いと涙と感動のビジネス書」仕事の要諦は人にあり~『鉄客商売』読者プレゼント

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 2016年10月25日、九州旅客鉄道(株)(以下JR九州)は東証一部上場を果たした。JRグループとしては東日本、西日本、東海に続いて4番目、本州以外のいわゆる「三島会社」では初の上場であった。上場に至るまでの長く厳しい道のりを振り返る――という話を期待してこの本を手に取ると、やや肩すかしに感じられるだろう。本書『鉄客商売』(PHP研究所、1,500円税別)は、著者の唐池恒二氏(現・JR九州代表取締役会長)が手がけてきた、鉄路から海路、はては飲食までの幅広い事業と、そこで出会い、さまざまなかたちで同氏を助け導いてきた人々との交流を活写した、まさに人間の物語なのである。

 書名の『鉄客商売』は、唐池氏本人もまえがきで書いているように池波正太郎の人気時代小説『剣客商売』になぞらえたもの。『剣客商売』は、老剣客が飄々と日常を楽しみながら身の回りの人々に起きる事件を解決していく人情もの。主人公は抜群の剣の腕を持ちながらあえてそれを誇らず、派手な立ち回りの描写もほとんどない。天下国家の命運には関わることなく、日々を生きる達人としての身過ぎ世過ぎを描いている。

 『鉄客商売』の”主人公”唐池氏は天下無双の剣の達人のようなスーパーマンではない。釜山から博多へ向かう高速船ビートルが船体トラブルで大幅に遅延すれば、ただ実直に乗客に頭を下げ、手配したホテルでビールを注いで回る。しかし唐池氏の強みは、ビートル遅延の一報を受けてからの的確な判断と迅速な行動にある。

 唐池氏が別の仕事で対馬を訪れていた際に、ビートルがエンジントラブルを起こし、時速80kmの高速航行を可能にしている「翼走」ができない、という事態が発生したのである。唐池氏が乗客120人分のホテルや旅館の手配、そこまで乗客を運ぶタクシーやマイクロバス、乗客を翌朝博多まで送り届けるフェリーの手配、運賃払い戻しのための現金の準備、韓国からの入国になるため検疫や入国手続の手配など、膨大にあるタスクを厳原町役場の職員とともにわずか3時間で成し遂げたことは、ビジネスマンとして第一級の手腕があることをあらわしている。

 荒波に揺られたビートルが厳原港に着くと、唐池氏は疲労困憊した乗客にここまでの苦労を見せることなく、メガホンを手に謝罪と説明を行う。

 大事なのはここからだ。人は、自分がこれからどうなるのか、どのようにされるのか、これからの予定はどうなっているのか、こうしたことがわからないと不安を募らせる。このことは、組織管理にもいえる。組織の目標や進むべき方向が明確でなく、組織の構成員にも知らされていないと構成員は何をどのようにしていけばいいのかわからない。ただ不安を覚え、やたら右往左往することになる。

(P.46より引用)

 予定外の危機にさらされ、不安といら立ちに心身をさいなまれている乗客に、唐池氏は状況とこれからの対応について懇切丁寧に説明する。「お詫びをするのはそれほど得意ではない」という唐池氏だが、そこまでの周到な準備と徹底した真心で、ついに乗客から「あなたたちの対応は立派だ」という言葉をかけられることになる。この件について、その後クレームは1件も届かなかったという。

 以降、「うまや」で海外進出を果たした外食産業、「ゆふいんの森号」「はやとの風」などのデザイン・ストーリー列車、そして世間の衆目を一身に集めた「ななつ星」まで、唐池氏が手掛けた事業を「人」という視点から説き起こしている。

 唐池氏が「(読み返すと)書いた本人でさえところどころ笑ってしまう」と書いているように、肩ひじ張って読む本ではまったくない。楽しい読書経験のなかに、組織やビジネスにおける大切なポイントがいくつも隠れている良書である。

【深水 央】

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