ロックフェラー後の世界秩序を握る人物(4)
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SNSI・副島国家戦略研究所 中田安彦
キッシンジャーとティラーソンは、ともにCSIS(戦略国際問題研究所)の理事であったこともあり、キッシンジャーが経営者経験しかないティラーソンに外交関係の指南を行っているのだろう。ただ、ロックフェラーが、「影の国務長官」と言われた民間外交家だったように、ティラーソンも石油ビジネスで多くの国の指導者や経済人との付き合いがある。
北朝鮮問題が緊迫化し始めるとすぐにティラーソンは日本、韓国、中国を訪問し、中国では早々と4月上旬の習近平の訪米を決めた。そして、この訪米時には自らがトランプに同行してフロリダの別荘での会談にのぞむ。そのことで日取りが重なっているNATO外相会議を欠席することになるようだが、今の世界では混乱した欧州とイギリスの出る幕はない。米、中、露の参加国の力関係(G3)が重要なのである。そして、米中首脳会談のあと、ティラーソンはモスクワに飛び、プーチンと会う。この動き方はキッシンジャーの近年の動き方と全く同じだ。
トランプは正式なホワイトハウスのメンバー以外にもニューヨーク金融財界のメンバーをアドバイザーとして起用している。リーマン・ショック後の世界金融危機を乗り切って今の健在な二人の財界人、すなわち、投資ファンド「ブラックストーン」の創業者であるスティーブン・シュワルツマンCEOと、一時は財務長官候補に名前が上がった、JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOである。シュワルツマンと共同でブラックストーンを設立した、ピーター・ピーターソン元商務長官はCFR理事長や、ロックフェラーの影響が強かった国際経済研究所(PIIE)の理事でもある。シュワルツマンは上海の清華大学蘇世民(スティーブン・ シュワルツマン)学院を設立するために資金を提供している。日本の孫正義(ソフトバンク会長)がいち早くニューヨークでトランプに面会したのもシュワルツマンとの交友関係があってのことだという。
このシュワルツマンは「大統領戦略・政策フォーラム」の座長として政権発足前から、トランプに助言しており、最大のキーパーソンだろう。2007年にニューヨークで大々的な60歳の誕生パーティを開いたときもトランプ夫妻はゲストとして呼ばれている。安倍晋三首相がフロリダの別荘を訪れていた今年の2月上旬にも、フロリダで70歳記念の誕生パーティを行ったが、トランプ自身は安倍首相の相手をしていたために出席できず、クシュナーとイヴァンカが代理で出席している。
繰り返しになるが、トランプ政権の誕生によって、「アメリカ・ファースト」をスローガンにした政権が生まれたが、アメリカが孤立主義に向かうということではない。そうではなくて、トランプの登場は反ネオコンのエリートと、共和党主流と、グローバル経済の犠牲者である白人有権者の利害が奇妙な形で一致したことによるものだ。ナショナリストとグローバリストという一見相反する勢力が共存しているのは、ロックフェラーが作った国際秩序を崩壊させるのではなく、自然な形で次の世代に引き継いでいくという思惑があるためだ。
残念なのはデイヴィッド・ロックフェラーが、アメリカ帝国衰退のきっかけになった2001年9月11日の世界貿易センタービルに対するテロ攻撃に本人が関与していたか、攻撃を事前に知っていたかについて語ることなく死んでいったことだ。世界貿易センターのツインタワーはネルソン・デイヴィッドの兄弟を象徴しているのは有名な話だ。俗に言う「陰謀論」の世界では、ロックフェラーが関与していたという噂が独り歩きしたが、いくらなんでも自分の象徴を自ら破壊することはないだろうと私は思ってきた。彼はインタビューに2機の飛行機が追突するツインタワーの姿をロックフェラーセンターのオフィスから眺めていたと語っている。ロックフェラーはロスチャイルド家と同様に実像以上に大きく描かれたことも確かだが、20世紀の一時期にアメリカが世界覇権国家として世界に展開する環境づくりを行ったことは誰しも認めるところだろう。
あれだけヒラリーやその支援者の金融家のジョージ・ソロスを口汚く批判するトランプ大統領だが、ロックフェラーを批判したことは私の知るかぎり一度もない。トランプはアメリカの反ロシア強硬派を弱体化させる扇の要としてニューヨーク金融財界とナショナリストたちのバランスの上に立っているということである。数年後にはロックフェラー世界秩序の最後の「番人」であるキッシンジャーも死ぬだろう。その時に、今成り立っている微妙なバランスが崩れ、アメリカが非常に好戦的になることが予想できる。
(了)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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