「スーパーワンルーム」という言葉をご存じだろうか?空間を仕切っているのはドアや壁ではなく、家具や配色や観葉植物、簡易的、意識的な仕掛けで、空間を緩やかにエリア分けしていく空間手法だ。ワンルームなのでドアで閉鎖される部屋がなく、基本的に大きな1部屋ということ。エアコンを1台で回すといった感覚に近い(正確には大きな馬力のエアコンが必要)。現在、リノベーションの世界で、一部の人たちのなかで静かな人気を博している「スーパーワンルーム」。我が家では、家族5人がこの手法で暮らしている。
ドアは閉めない
・社会性の基礎:お互いに譲り合ったり、気遣ったりする「優しさ」が日常のなかで身につく。限られた空間だからこそ育つ力。
・感情の共有:嬉しいことも悔しいことも、家族全員でリアルタイムに分かち合える。そして最大の効果は、喧嘩したとき、機嫌が悪いとき、交わりたくないときに、どうやってその感情を回復させるかを考え行動に移すこと。これは、スーパーワンルームの最大の効果といってもいい。
仮に個室があった場合、子どもは部屋へ閉じこもり、自分の世界に引きこもる。一時の感情やストレスは、それで落ち着いていくかもしれない。時間が経てばその事案は時効になり、ナアナアになって消えていくかもしれない。でもそれは、子どものレジリエンスを育てているだろうか?感情を抑え、また切り替え、相手と対峙して関係を修復していく、感情を回復させていくための流れは取れているか?家族が同じ空間にいれば、それはいやでも何か対策を講じなければならなくなる、初めは一番遠い位置に退き、それでも用事があればこちら側ににじり出てくる。スーパーワンルームで構築された効能の渦のなかに巻き取られ、いやでも関係の修復を紡ごうともがき始める。だって小さな子どもにとって、親は頼らざるを得ない存在なのだから(だからといって親が過剰なマウントを取っているわけではない)。自然に、社会性のなかで防御態勢を取り、関係修復の流れをたどっていく。妹は兄の背中を見、弟は姉の背中を見て学習する。「あっ、こうやればいいんだ。こうすればママの気持ちがアガル…。これをやったらパパの機嫌が悪くなる。それでもこの後これを出せば、機嫌が上向いてくる…」と。頭が考え始め、体がそのように動き出す。自然と人を見ながらその落としどころを弾き出すのだ。
旨いものを囲んで食べる
我が家の子どもは、食べることが好きだ。もちろん私も妻も。“このキウイ甘い!”“このお肉おいしい!”“この魚どこのやつ?”──そんな会話が自然と飛び交う。我が家の買い出しは近場や市内にとどまらず、面白いスーパーがあると聞きつければ、遠くまで足を運んでいくことも多い。スーパーマーケットは、私に言わせれば小さな観光地である。ちなみに妻は管理栄養士の資格を持つ食材のプロだが、あまりミリミリと数値の計算などしない。おいしいものを食べたいという基本的願望が私と同じで、体はすこぶる健康体だ。
私も若いころから食べることが好きで、一人暮らしのころはよく自炊をしていた。お皿や器、調理器具やテーブルなどに凝って物色などもよくしていた。料理はそこそこだが、職業柄か昔からの興味からか、環境側に興味が強い。だから建築の業界へ進み、今は家の設計をしている(ちなみに職歴が長いのは店舗デザイン。そのなかでもカフェやレストラン、バーや居酒屋など、飲食店のデザイン・設計が長かったのも、その流れを汲んでのことかもしれないと今では思う)。
誰かの誕生日には、家族がそろって食卓を囲む。そうなる理由に1つに、パーティーメニューが並ぶからだ。サムギョプサル、握り寿司、お鍋、アヒージョ、たこ焼き、焼きそばに夏は流しそうめん、冬はチーズフォンデュ!もちろん主役を中心にケーキのおこぼれにあずかれるのも、この日の特権だろう。
その他にも1年を通して行事食は多い。妻の腕にも自然と力が入る。正月にはおせち料理、七草粥を食べて越冬し、ひな祭りで春の訪れを感じながら、実家の裏山で獲れる初物の筍のお刺身をいただく。毎年恒例、老舗和菓子店のパイナップル大福をいただくころに夏の訪れを感じ、鰻でスタミナをつけ、桃や葡萄、とうもろこしがスーパーの店頭に並ぶのを楽しみにしている。秋といえば言わずもがな食欲の秋。夜月を見ながら団子を頬張り、肌寒くなってきた反動で温かい鍋料理やおでんをいただく。寒さが厳しくなるころには、みかんや苺が華やかに食卓を彩り、また1年がめぐる。
大人になったとき心に残るのは、豪華な部屋や最新の設備ではなく、家族で身を寄せ合い笑い合った風景、囲んで食べたおいしい食卓の記憶ではないだろうか。愛されている記憶とは、充実した機能、環境の広さではなく、心の濃さ、距離の密度や接点で深まるのだと思う。
役割が必要
私はあまり怒らない。そしてあまり褒めもしない。そんななかで、家庭内では常に笑いの絶えない明るい雰囲気を生み出したいと思っている。家庭内での会話はというと、基本的にオープンである。すべての家族に起こった出来事は全員に筒抜けで、基本的な隠しごとはない。それぞれの喜怒哀楽に対して、言いたいことは言い合う。変に隠すようなこともしないし、そこで起こる摩擦はちゃんとガス抜きして遺恨を残さないよう、コミュ力の高い妻が間に入って調整する。私が唯一言うとすれば、良いことも悪いことも、“気持ちをちゃんと言葉にしなさい…”ということくらいだ。
家の雰囲気はというと、ユーモアを軸足に置いて組み立てている。基本的に、笑いや朗らかさのないところに幸せはないと思っている。子どもたちへの影響も考えると、親は少しズッコケているくらいがちょうどいい。また、雰囲気づくりに一役買ってくれているのが、家事手伝い。子どもには手伝いをさせたほうが良い。下の子は米炊き、長女はお風呂掃除と風呂焚き(塾のないときはお味噌汁づくり)、長男はごみ捨てと長女の塾のお迎え(駅~家までの道中付き添い)や次男の部活のお迎え(自転車で)。予定で合わないときは交代などして、家族でトレードしたりしている。「働かざるもの食うべからず」、そうしていると自然と子どもは買い出しについてきて、お目当ての食材は捜してカゴに詰めていくのだ。
子どもにとってお客さま体質であると、自活の精神が育たない。だから親のため、家族のため、自分のために、家のなかでも役割を与えたほうが良い。「今日はカレーだから、少し硬めに炊いておいたよ!」…下の子はそうやって自らの食卓が楽しくなるように、お米のふっくら具合を考え始める。肩を寄せ合う空間での暮らしでは、そうやって家事の伝播が自然に行われる。生きるためには、皆が働いているのだといやでも感じるものだ。
子どものベッドが置いてある寝室は、あまり稼働しない。子どもはときどき籠りたいこともあるだろうが、あまり長い間そこにいることはないようだ。
テレビも囲う
今の時代だからこそ、個々の考えや認識をたしかめるため、また言葉の重みを知るために、共通体験をするようにしている。手軽にできるのが、テレビを見ること。各々に得たいと思う情報は、無限に探せる。ニュースやスポーツ、バラエティでもドラマでも、同じ番組を見て感想を言い合い、感覚のすり合わせをすることで、間違った考えの軌道修正が手軽にできる。そして、多くの実になる情報が得られる。だから我が家のテレビは、一家に一台。複数あるとその優位性を失ってしまうため、当然絞る。一台をシェアすることで生じる番組の取り合いという摩擦も、また調整力を育てるのだ。誰かがバラエティを見ていれば、今流行っているものはこれかと話を膨らませ、懐かしい歌番組が流れてくればその時代の思い出を紐解き語らせる。事前に録画して時間をずらして見てみたり…。今と昔の話題をリビング内で交錯させるのに、テレビが一役買ってくれる。この時間が、家族みんなで共有するアーカイブ空間になる。
欲しければ家を出てから
かくゆう我が子たちは、口をそろえていう…、「個室が欲しい」と。わかるが、それはできない。少なくとも、私の家ではそのような方針としているため、個室が欲しければこの家を出てからにしなさい、と。一人暮らしをするときがきたら、個室を十分堪能すればいいし、将来家族ができたときには、自分の子どもには個室を与えればいい。でも、私の家で個室はいらない。今のところの考えでは、肩を寄せ合うほどの広さの空間に、子育ての真髄が宿ると思っている。
(筆者イメージ作成)
彼らには、まだ理解できないかもしれない。だからこれは親の努めとして、憎まれ役に徹する。これは私のプライドであり、保護者の責任と律している。足りないものもある、ここにあったらいいモノもあるだろう。それでも、今目の前にあるものの恩恵に感謝し、それを存分に使い倒し楽しむ。“足るを知る”ことに軸足を置いている。この効能がどんなかたちで彼らを幸せにするのか、子どもは知る由もない。この結果がいつ出るかはまだわからない。良い傾向が出てきていると、薄々は感じてきているが、この続きは私の老後の楽しみの1つとしてとってあるのだ。だからこの家を出て、子どもが巣立っていくまでのもう少しの間、淡々とこの生活を楽しもうと、妻とは話をしている。
(了)
<プロフィール>
松岡秀樹(まつおか・ひでき)
インテリアデザイナー/ディレクター
1978年、山口県生まれ。大学の建築学科を卒業後、店舗設計・商品開発・ブランディングを通して商業デザインを学ぶ。大手内装設計施工会社で全国の商業施設の店舗デザインを手がけ、現在は住空間デザインを中心に福岡市で活動中。メインテーマは「教育」「デザイン」「ビジネス」。21年12月には丹青社が主催する「次世代アイデアコンテスト2021」で最優秀賞を受賞した。

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