2024年11月25日( 月 )

あえて言おう、「小選挙区制度は日本の政治を焼け野原にした」(4)

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SNSI・副島国家戦略研究所 中田安彦

 私は日本というのは巨大な前近代のムラ社会であり、そのなかに政治勢力で言えば、自民党ムラ、労組ムラ(民進党)、宗教ムラ(公明党)、マルクスムラ(共産党)、小沢ムラ(自由党)、大阪ムラ(維新)という小さなムラがあると思っている。社会科学者の小室直樹氏がかつて指摘したように、日本は欧米諸国のような、「近代国家」(モダーン)にはいまだなっていない。おそらく、今後もなることもできない。

 日本は専制国家と言わないまでも、トルコや中国のような独裁の一歩手前の前近代的(プレモダーン)な「権威主義国」に少しずつ近づいているようにも見える。二度に渡る自民党の圧勝や、政府に対する露骨な批判を政権側からの圧力に屈して自主規制するようになってしまったメディアの存在もそうだし、森友学園の経営する幼稚園で園児に「安倍首相頑張れ」と園長が叫ばせていたことは、日本が中国共産党や北朝鮮が推し進める個人崇拝に近づいている気配すら感じさせる。イギリスのFT紙は、すでに2014年暮れに中国の習近平、トルコのエルドアン首相やハンガリーのオルバン首相のような明らかな権威主義的政治家と並んで安倍首相を紹介する論説記事を載せている。これは不気味な暗示だった。(FT,This is the year of the political strongman, DECEMBER 5, 2014 by: Philip Stephens)

 すべての問題を小選挙区制によるものだと決めつけるのは暴論だという批判はあるかもしれない。中選挙区制は金権政治の温床になるという批判もあったが、一方で小選挙区制度下の現在よりも政治家同士の違いもあったし、派閥が存在していたことで、そのなかで議論も自由活発に行われていた。良い点もたくさんあったのである。

 一時は民主党の政権交代を成し遂げた政治家小沢一郎の勢力衰退と、政権交代可能な二大政党制をとなえてきた長島議員の離党、それが、小沢一郎が「自立する個人、自立する国家、政権交代可能な二大政党制の実現」をとなえた『日本改造計画」という設計図に基づいた日本に近代をもたらそうとする「政治革命」が結局、実らなかったことを露骨に示していると思う。私も一時はその政治革命に期待した一人だがそのように結論せざるを得ない。

 昨年の米大統領選挙のあと、シンクタンク「ニューアメリカ財団」のリー・ドラットマン主任研究員は、朝日新聞の取材に対し、米選挙制度を批判し、「複数の議員を送り出す中選挙区ならば、政党内の意見にも幅が出るが、小選挙区制度は逆の作用を生み、政党の意見の幅を無くす」と指摘している。「あれかこれか」の選択肢しか与えない小選挙区制にはアメリカでも疑問の声が上がっているのだ。

 しかし、政治家たちはそのシステムを変えられない。それは日本と同じだ。かつて、英首相のチャーチルは次にように語った。「民主主義は最悪の政治といえる。これまで試みられてきた、民主主義以外の全ての政治体制を除けばだが」。ただ、民主主義を実現するための選挙制度において小選挙区制が最も幅広い民意を反映するのではない。むしろ逆である。そろそろそのことを国民は気づいた方がいい。あえて言おう、「小選挙区制度は日本の政治を焼け野原にした」と。

(了)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
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