「ロシア・ゲート疑惑」を8割がた乗り切ったトランプ大統領(6)
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SNSI・副島国家戦略研究所 中田 安彦
だから私はコミー証言の結果、8割方、ロシア・ゲート問題は解決した、と言っているのだ。残りの2割はトランプ自身がツイッターでおかしなことを書いたり、不要な挑発をしたりすることなどのリスク要因を考慮したものだ。例えば、トランプはコミー証言のあとにホワイトハウスの庭で会見したが、この際に「自分は宣誓して証言する用意が100%ある」と啖呵を切ってしまった。この場ではコミーとのやり取りの録音の存在の有無も記者から問われたが、これについて「すぐに分かるが、がっかりすると思うよ」と言っていたので、録音は存在しないのだろう。
ただ、「宣誓証言」をするということは、これもまた、ヒラリーのベンガジ公聴会のときに「宣誓したヒラリーの証言が事実と反する」とトランプが散々叩いてきたこともあり、トランプの証言次第では「ブーメラン」となって突き刺さる可能性がある。また、トランプは今回の問題を処理するために、やり手のユダヤ人弁護士で15年来の私的な顧問契約のあるマーク・カソヴィッツをチームに引き入れたが、この弁護士がコミーの証言をリークとして法的に訴えるなどした場合には、私人に対する言論弾圧ではないかとしてリベラル派や保守派の一部からも反発を浴びる可能性はある。
さらにはロバート・ムラー特別捜査官が、数ヶ月以上に及ぶ捜査の結果、新しい事実を見つけ出すことで、ロシア・ゲート疑惑が新展開を迎えることも全くゼロではないし、トランプが懲りずに政治の世界に「マフィアのボスと子分の忠誠関係」を持ち込む可能性もゼロではない。だが、これらの問題はすべてカソヴィッツ弁護士の意見をトランプが受け入れるかにかかっているが、しかも、この弁護士はロシア関係の顧客も多いと早くも報じられている。
またロシア・ゲートとは別の動きだが、トランプホテルやトランプのビジネスが今も外国政府から支払いを受けていることが違法ではないかとして提訴が行われるもようだ。また、トランプ派の動きとしては、元FBIの捜査官が「米国では911以降、CIAやNSAによって国民に対する盗聴行為が横行していたが、これが違法であるにも関わらずFBIはストップしなかった」としてコミー前長官の資質を問う「内部告発訴訟」が準備されていると、熱烈なトランプ支持者の評論家のローラ・イングラハム女史が運営する「ライフゼット」や、保守派のラジオ局が運営するCircaニュースなどの一部の保守系ネットメディアが報じた。911のあとに制定された「愛国者法」によって国民監視が進んだとする批判はリベラル派やリバータリアンなどの保守派の中で根強い。トランプ批判をしているのは、情報機関の拡大を支持するマケイン派たちであることを考えると、この訴訟が注目されて、政権側に利用されたくはないだろう。マケインらがずいぶんと及び腰だったのはこれが関係しているかもしれない。
しかし、トランプ政権は急には崩れないことが今回の流れで分かったことで、焦点は国内政策の問題(健康保険問題や税制改革、インフラ投資政策を国民に支持してもらう)になるだろう。今回のロシア・ゲート問題は、主流派メディアが「マンチュリアン・キャンディデット」のような陰謀論を裏書きにした報道を行うなど、反トランプ派の勇み足なところがある。同時に、トランプ自身も、いつまでも「自分は政治の世界では新人だ」とも言っていられない。トランプ政権はホワイトハウスの中では、保守派のスティーブ・バノン首席戦略官とウォール街に近いジャレッド・クシュナー上級顧問が微妙なバランスを取っている。バノン路線で暴走することも命取りになるし、ウォール街路線も「民衆の味方」イメージにとって良くない。更に問題は、反トランプ運動に熱を入れすぎて、野党民主党がヒラリー・クリントンの負の遺産や、次世代のリーダーの発掘に力を入れていないように見えることである。アメリカのデモクラシーが、東アジア的な権威主義やファシズムに向かうかどうかは、野党の責任も大きいのである。
(了)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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