2024年12月23日( 月 )

日本の構造的問題点を考える一冊~『PC遠隔操作事件』(光文社)読者プレゼント

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日本が抱える構造的な問題が明るみに出た事件

 推定有罪を前提とした警察や検察による捜査と警察に寄り添うメディア報道。また、それを可能とする現行の刑事司法制度が抱える問題。そして、1人の青年が愉快犯として事件を引き起こすに至った社会的背景。「PC遠隔操作事件」(光文社、2,400円税別)は、普段はふたをして議論を避けがちな日本が抱える問題の数々を、「パソコン遠隔操作事件」を振り返りながら検証する一冊となっている。
 「パソコン遠隔操作事件」は2012年6月29日、神奈川県横浜市のホームページに市内の公立小学校に対して無差別殺人を予告する書き込みから始まり、同年9月10日までの間で14件もの似たような殺害・爆破予告がなされた事件のことだ。この一連の事件の犯人として逮捕され、8年の懲役刑に服することとなったのは、片山祐輔という1人の青年だった。

浮き彫りとなった2つの大きな問題

 この事件では紆余曲折を経て片山が犯人だと判明し、判決の確定に至る。著者であるビデオジャーナリストの神保哲生氏は、「パソコン遠隔操作事件」が最終的にただの愉快犯事件だったとして収束し、社会の関心が去りゆく一方で、市民社会に大きな影響を及ぼしている数多くの問題を浮き彫りにした重要な事件であるとして取り上げている。

 本書は第1章から第10章にかけて、事件についての詳細な記録がまとめられてあり、第11章と第12章でこの事件が明らかにした重要なポイントを大きく分けて2つ提示している。1つは、現行の刑事司法制度のもとでの警察や検察、そしてメディアが抱える問題について、もう1つは、片山が犯行に至った動機についての社会的遠因からの検討である。

推定有罪捜査・推定有罪報道

 「パソコン遠隔操作事件」の殺害・爆破予告は、犯罪とは無関係である4人の一般市民のパソコンを片山が遠隔操作して書き込んだものだった。そのため警察は事件当初、4人のパソコンのIPアドレスや閲覧履歴などの状況証拠だけを根拠に、4人を誤認逮捕してしまう。その結果、4人のうち2人の被害者は過酷な取り調べから虚偽の自白を強要された。このような誤認逮捕や冤罪事件が発生する要因として、現行の刑事司法制度による強大な捜査権限容認の仕組みと、推定有罪を前提とした警察や検察の捜査による人質司法、長期勾留、高圧的な取り調べが影響していると警鐘を鳴らす。そして、捜査の片棒を担ぐかたちで推定有罪を前提としたメディアのリーク報道も同様に大きな構造的な問題として挙げられている。

片山が犯行に至った社会的な遠因

 片山は、他人とコミュニケーションをとることを苦手としており、学生時代は友達がほとんどできず、周囲から嫌がらせを受けた経験があった。うまく立ち回ることができなかった結果、自分の居場所を失い、孤立することで生きづらさを感じるようになる。片山は日常の不全感の埋め合わせとして、新しい自分の居場所をインターネットに見出すようになった。インターネットはリアルと切り離した状態で且つ、自分が望むかたちで周囲と気軽にコミュニケーションがとれる。また、リアルでの憂さ晴らしにネットでの荒らし行為をすることは、リアルでは感じることがない高揚感や満足感をもたらした。このことに合わせて片山は、自分が承認されないことへの不満と承認されたいという欲求がネットへの依存に拍車をかけ、ネット上での行動が徐々にエスカレートしていった。最初は悪戯に過ぎなかったネットでの犯行だったが、メディアによる過度な報道や警察の失態から社会が過剰な反応をみせた。これが片山にとって自己顕示欲を満たすきっかけとなり、「パソコン遠隔操作事件」の凶悪性を高め、世間を騒がす大事件へと変容していくことになった。また、以上のことは片山のみならず社会に自分の居場所がないと感じている人なら誰でも同じような状況に陥る可能性がある。このように、1人ではどうすることもできないような根深い問題を社会が内包していることに気づかされる。

誰にでも起こりうる問題

 「パソコン遠隔操作事件」に見られた一連の出来事は、誰にでも起こりうる問題であることを明示するものであった。また、現行の制度の下ではちょっとしたボタンの掛け違いから、推定無罪の原則を無視した捜査や報道から冤罪事件のような間違った結果を招く危険性が多分にある。共謀罪が施行された今、警察の権限は拡大するとの見方がある。7月7日には、北海道の中学生がパソコンを遠隔操作するコンピューターウイルスを作った疑いで書類送検された。
本書は、すぐには変えることができない日本が抱える構造的な問題について触れている。普段、あまり考えることがない問題点を、一度立ち止まって考える貴重な機会を本書は与えてくれる。

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