2024年12月22日( 日 )

腑抜けの集団の自民党、勢力とはいえない野党(後)

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 参考人として登場した今治市がある愛媛県の加戸守行元知事などは、安倍首相抜きで行われた前の参考人招致で「加計学園がたまたま、愛媛県会議員の今治選出の議員と加計学園の事務局長がお友だちであったから、この話が繋がれてきて飛びつきました。これはダメなんでしょうか? お友だちであればすべてダメなのか」と縁故主義丸出しの発言をしていた。これは要するに「口利き」を積極的に認める立場だ。確かにそれまでの行政のあり方というのは「口利き」ありきで、地方ではそれがある意味「常識」だった面があるのは否定できないが、「国家戦略特区制度の運用の原則」では、「情報公開の徹底を図り、透明性を十分に確保すること」が定められている。

 獣医学部の新設の是非論は、国家戦略特区諮問会議の民間議員たちのような「規制撤廃原理主義者」が好む議論だ。それは獣医師会や文科省を抵抗勢力に位置づけるわかりやすい構図ができるからだろう。ただ、大学のような教育機関を単純に市場原理に委ねて良いのか、といえば、それは大いに疑問だ。

 しかも、今回の獣医学部新設では、今治・加計だけしか申請できないように、他に手を上げていた京都産業大学をふるい落としており、そのプロセスは不透明そのものである。「透明性を十分に確保」という原則に反しているではないか。
 加戸元知事が「お涙頂戴」の熱弁をしたように、今治市が構造改革特区の時から10年間、獣医学部をつくろうと努力していたことは事実だ。しかし、その過去に積み重ねられた事実が、今回、国家戦略特区で獣医学部を認可するかの重要な判断基準になっていくべきとするのは、やはりおかしい。それは、例えて言うなら、司法試験で10年連続受験した劣等生と、1年目で合格する優等生と比較して、浪人生を優遇するような話ではないか。

 政府は「特区運用原則」のなかの「スピードを重視」という部分だけは重視して、「平成30年4月開学」という加計学園のニーズに応じている。日経新聞の世論調査で「獣医学部新設をめぐり、政府は適切に手続きが行われたと説明しています。あなたは、これまでの政府の説明に納得できますか、できませんか」という問いに対しては、77%が「納得できない」(納得できるが13、どちらともいえない・わからないが10)と答えている。つまり、多くの国民が決定において何らかの「不公正」が行われたと考えているということだ。
 ところが、閉会中審査で明らかになったのは、安倍首相や政府側の参考人は、どんな証拠を突きつけられても、自らの過ちを認めることはなく、過去の国会答弁は都合よく修正する、ということだ。安倍首相は、衆議院で、過去に述べた「責任を取る」という発言まで撤回してしまったようにも聞こえる答弁を行っていた。。都議選で大敗して安倍首相は、過去の態度を反省しているかのように口調だけは神妙に振る舞っているが、やっていることは、加計をめぐる内部文書をかつて「怪文書扱い」して、相手にしなかったときと全く変わりがない。全く反省が見られない。

 ところが、そんな安倍政権に国民は今のままだとこのまま付き合い続けることを強いられる。というのも、自民党の内部に、安倍晋三を総理の座から引きずり下ろしてやろうとするクーデター勢力が存在していないことと、自民党や公明党や維新の会といった与党以外の野党勢力が頼りないからだ。

 「ポスト安倍」といわれる政治家は、麻生太郎、石破茂、岸田文雄、野田聖子の4人だが、麻生財務大臣は早々と、改造内閣では自分の派閥の政治家を入閣させ、党の要職につけることで安倍と現段階では手を打ったようだ。また岸田外相も20日夜に安倍と会食して、外相留任か党執行部でのポストで安倍政権を支えると約束したと報じられ、22日に「自民党の一人として政府を支えていかなければならない。しっかり汗をかきたい。具体的なポストは安倍晋三首相が判断するものだ」と発言したと報じられた。

 最有力の今は閣外にいる石破茂にしても、「いつ天命が下ってもいいように準備はしておくが、自分から地位を取りに行くような真似はすべきではない」という考えの持ち主らしい。このように、ポスト安倍と言われる政治家はみな「決起宣言」をしない。党内で安倍おろしの多数派工作が行われているという話も聞かない。自民党則では事実上の総裁解任規定であるリコール規定を設けているが、皆、内閣改造の結果とその後の情勢を見極めようというハラだ。

 安倍首相が5月にいきなり、改憲を政治日程に入れたことも自民党のポスト安倍の政治家たちを追い込んでいる。ここで安倍おろしをやった政治家は、「改憲の千載一遇のチャンスを潰した政治家」というレッテルを貼られることになる。自民党は「自主憲法制定」を党是とした政党である。この「錦の御旗」を安倍首相が握っているのは案外大きい。

 もちろん、野党が弱体化しているのも自民党内の政争が勢いづかない原因の1つだ。というのも、野党が次の総選挙で自公・維新勢力を圧倒するほどの勢いがあるか、現在において与野党伯仲の状況にあれば、自民党はダメな総理を引きずり下ろして、新しい総理で野党に勝てる体制を作ろうとする力学が生まれるはずだ。しかし、いまは衆参で自公で3分の2議席を押さえている。かつて第一次安倍政権の末期である2007年には参議院選挙で野党はいわゆる「ねじれ国会」を小沢一郎元代表の指揮下で成し遂げていた。今とは全く状況が違う。

 安倍政権に対峙する立場の野党は、都民ファーストの会に敗れた都議選の敗戦総括を行う前に、蓮舫代表の二重国籍問題が何故か再燃し、党内が割れていることを露わにしてしまった。自民党への政権交代の時の総理大臣で「疫病神」であった野田佳彦幹事長はようやく、25日に辞任の意思を正式に表明したが、野党の顔である代表が、「小選挙区選出の衆議院議員」ではなく、参議院議員であるという問題は残っている。

 やはり、野党第一党党首は衆議院議員でなければならない。そこで蓮舫代表は、「次の総選挙で東京都内の小選挙区に鞍替えする」と表明しているが、その前に代表を辞任するのが筋だろう。民進党の最大の問題は代表と幹事長が東京と千葉という関東圏の議員であることだ。東京を中心に日本を考えてしまうことにもなりかねず、次の代表と幹事長は地方の議員であることが望ましい。地方から党の立て直しをしなければならないからだ。政治家・蓮舫は今がどん底であるが、ここで代表に居座っては、この人の政治生命に何らプラスはもたらさない。一兵卒として自分を見つめ直す時だろう。支持者も蓮舫代表に、今は身を引くようにすすめ、数年後に復活することを期待すべきなのだ。

 自民党も民進党も、かならずしも今の総裁・代表に取って代わる人材がいないわけではない。しかし、それぞれがそれぞれの事情で身動きできなくなっている。要するに政治家に「突破力」がなくなってしまっているということである。かといって都民ファーストの会が国政政党化するといっても、今名前が上がっているなかで「小選挙区当選の衆議院議員」は、小池知事の側近である若狭勝氏だけだ。これではとても総選挙の顔にならない。

 与党側は「安倍おろし」の号令がかからず、野党側は看板になる人材を持っていない。その中で比較相対的に強いのは現在の体制と言うかたちになってしまっている。悲劇的なのは現在の体制のトップの資質に関して疑問を益々多くの国民がいだき始めている、ということだ。

 結局は、内閣改造後に新閣僚にもスキャンダルが続出して、いよいよ自民党内で「安倍ではダメだ」という認識が強まるかどうか、それを自民党を支持してきた党員がどう考えるか。これにかかっている。安倍首相を失脚させられるのは自民党だけだ。どんなに国会で安倍首相が虚偽答弁を繰り返して国民が呆れ返っても、自民党の内部で決起の声が上がらない限り、安倍政権がだらだらと続く。野党が弱いので自民党にも危機感が本格的に高まっていない。

(了)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
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