強まる学校現場への圧力―灘校・和田校長が教科書選定をめぐる圧力を告白
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全国屈指の進学校、私立灘中学校・高等学校(神戸市)の和田孫博校長が同人誌に投稿したエッセイが波紋をよんでいる。
論文・エッセイ集「とい」は富山大学の松﨑一平氏らが編集・発行する同人誌。昨年9月9日号に、和田氏は「謂(いわ)れのない圧力の中で―ある教科書の選定について」というタイトルのエッセイを投稿している。
エッセイは、昨年灘中学の教科書に選ばれた社会科教科書『ともに学ぶ人間の歴史』(学び舎)をめぐる騒動についてまとめたもの。教科書採択直後から相次いだ、県議や国会議員からの問い合わせ、さらに組織的と思われる抗議投書の数々(約250枚)など、同教科書の採択は、灘校を予想もしなかった渦に巻き込んでいく。
和田校長は、こうした現象を日本型ファシズムに重ねてみせ、エッセイの最後で、国民を閉じ込める「正方形の檻」がすでに完成しているのではないか、と問題提起する。淡々としながらも、はっきりとした意思を感じさせる文章は、同エッセイで紹介している抗議文が醜悪なだけに清涼感さえ感じさせる。ぜひ、全文を読んでいただきたい。
Twitterでは、論壇からのリアクションが相次いだ。
最初にエッセイを取り上げた津田大介氏。
「灘校の校長が歴史教科書採用を巡って同校に有形無形の「圧力」がかかっていることを具体的に開示、かつ極めて冷静に分析し、いまこの国で起きている「歴史情報戦」がどのような段階にあるのかわかる声明文。全国民必読の文章では。立派な校長だと思う。」灘高校OBの米山隆一・新潟県知事も母校にエールを送った。
「母校灘校が従軍慰安婦の記載のある教科書を選定した所これに反対する団体から圧力がかけられた事を校長先生が公表しています(http://toi.oups.ac.jp/16-2wada.pdf)。灘校は自由な学校で良い教育を受けさせてもらいました。灘校の自由が失われる事のない社会を目指したいと思います。」※クリックで拡大
ところで、灘校が採択した社会科教科書については、産経新聞がかつて興味深い記事を載せていた(2015年5月)。
「ちょっと冷静になっては」とでも言いたくなる敵愾心丸出しの論調だが、フジサンケイグループが扶桑社から『新しい歴史教科書』、育鵬社から『新しい日本の歴史』という歴史教科書を出していることと無関係ではあるまい。おおかた、彼らがいうところの「新しい」歴史認識に基づいた教科書の採択率の低さに業を煮やしたのだろう。
「おっさん」たちが頭ごなしに押し付ける歴史認識の「加齢臭」のひどさに、できれば早く気付いてほしいものだ。保守系月刊誌『Will』の同教科書をめぐるネガティブキャンペーンもそうだが、おやじたちが嫌われる最大の要素「説教体質」を早く改めろ、と自戒を込めて忠告しておく。灘校の兄弟校である東京の麻布学園も、同じ社会科の教科書を採択している。同学園はNetIB-News編集部の取材に「今年はまだないが、昨年は採択をめぐって(抗議)ハガキや手紙が送られてきた」と話す。教科書採択をめぐるこういったリアクションは記憶にないというから、和田校長が指摘するような「特定勢力」の組織的示威行為だった可能性もある。つくづく、陰湿な連中というほかない。
とにかく、日本を代表する中高一貫校の教育現場が思考停止していないことを明らかにしたことは、この騒動の唯一の収穫だ。
おとなたちをめぐる汚いニュースが続いている。一流と呼ばれる官庁で働く幹部が平気で嘘をつく姿を見るにつけ、仕事の評価は「子どもに胸を張って伝えられるか」の一点に尽きると感じるのだが、いかがだろうか。【小山田 浩介】
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