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トランプ大統領が敵視する「ディープ・ステート」とは何か(前)

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副島国家戦略研究所 中田安彦
(2017年8月30日)

 トランプ支持者のメディアである「ブライトバート」や「インフォウォーズ」でよく出てくる「ディープ・ステート」とは何か。トランプ外交を理解するにはこの存在を知ることが重要になる。

 「ディープ・ステート」というのは、かつては1950年代のアイゼンハワー政権で「軍産複合体」と言われたものと近く、軍隊、軍需参照、官僚機構、諜報機関などが結びついて、作り上げた「選挙で選ばれた国民の代表者ではない集団」によって国家の基本政策が決められている<状態>のことをいう。トルコやパキスタンなどのようにしょっちゅう軍隊がクーデターを起こしている非民主的な国家と同じように、アメリカにも民主的に選ばれた政治家に圧力をかける「闇の存在」があると信じられているのだ。ブッシュ政権時にイラク戦争を煽り立てたネオコン派はまさにその先駆者である。

 アメリカの情報機関から機密書類を持ち出して公開して追われる身になっている、エドワード・スノーデンを取材した元ガーディアンのジャーナリスト、グレン・グリーンワルドは、選挙戦中にイラク戦争を誤った情報で引き起こしたCIAの責任を問いただしたドナルド・トランプに対して、民主党ヒラリー派の重鎮のチャック・シューマー上院議員がテレビ番組で「情報機関に逆らい続けると潰されるぞ」と警告したと指摘しているが、この「逆らえば殺される」というのが「軍産複合体」や「ディープ・ステート」に対して皆が持ってきたイメージだ。左派のジャーナリストの間では、トランプの出馬よりかなり前に軍産複合体を「ディープ・ステート」と呼ぶようになっていた。

 ネオコン評論家でトランプが最初に選挙戦中に行った外交演説を主催した雑誌「ナショナル・インタレスト」のジェイコブ・ヘイルブルン編集長は、14年の段階で、「ネオコンの次の一手」と題する「ニューヨークタイムズ」への寄稿で、かつては共和党タカ派として外交政策に影響を与えてきたネオコン派が、「アラブの春」を期に民主党のヒラリー・クリントン派として鞍替えしていると指摘している。最たる例が、日本でネオコンの名前を知らしめるきっかけになった、ロバート・ケーガンの奥さんで、ブッシュ政権のディック・チェイニー副大統領の側近だった、ヴィクトリア・ヌーランドがオバマ政権の東欧担当国務次官補になって潜り込んだことだという。共和党のジョン・マケイン上院議員とともに、13年のウクライナの政変を煽って、親ロ派のヤヌコヴィッチ政権を転覆させた黒幕だ。(ヤヌコヴィッチ政権の外交PRを担当していたのが、トランプ政権の選対本部長で、今はロシア疑惑を議会とFBIに追及される立場のポール・マナフォートだ)

 これらのネオコン派は、特にロシアに対する姿勢で自分たちの政策を全否定するトランプの登場に危機感をいだき、共和党員でありながらヒラリー・クリントンを応援した。知日派と言われる元政府高官でも、ネオコン派の一人である、リチャード・アーミテージ元国務副長官が同じように反トランプ連合に加わっている。トランプ政権はこれらの数百人の反トランプの人々を政権入りさせない。

 グリーンワルドによると、ネオコン派はトランプが本格的に選挙戦で共和党の指名を勝ち得たあともしばらくは、ヒラリーとロシアの関係が深いと攻撃をしていたが、スティーブ・バノンが選対本部長に就任した16年8月以降は、ヒラリー支援で踵を揃えるようになった。

 グリーンワルドによると、トランプ政権発足後に、共和党のネオコン派の代表格である、言論人のウィリアム・クリストルは、自分たちが作っていたシンクタンク「フォーリン・ポリシー・イニシアチブ」を閉じ、民主党のヒラリー派を巻き込んで新しく「民主主義保全同盟」という組織に作り変えた。
ここには共和党内でマケイン上院議員と並んでネオコン派のマルコ・ルビオ上院議員のスタッフも加わっている。ヒラリー派からは外交政策顧問のジェイク・サリヴァン(ヒラリー政権なら国家安全保障担当補佐官と言われていた人物だ)や、選挙戦の前後にトランプとロシアの関わりを繰り返し批判したマイク・モレルCIA副長官や、駐ロ大使のマイク・マクファールといった前政権の情報関係者が入っている。

 グリーンワルドは、共和党に棲みついていたネオコンが、民主党と合流したと分析する。ネオコンは、ヒラリーが、(1)イラク戦争を支持したこと、(2)シリア反体制派へ武器供与してアサド政権を打倒することを支持したこと、(3)プーチン大統領を独裁者ヒトラーと同一視したこと、(4)イスラエルを支持していること、(5)民主主義を世界に広めることに熱心なこと、を極めて高く評価している。この中では、トランプが当てはまるのは、イスラエル支持くらいだ。トランプは外交の基本政策として、ブッシュ政権が手がけて大失敗した「中東民主化政策」と「国家建設」には手を出さないと宣言しており、これは8月下旬に行われたアフガニスタン増派を発表した演説でも一貫している。

(つづく)

<プロフィール>
nakata中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

 
(後)

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