ホーキング博士の気になる未来予測 地球温暖化とキラー・ロボット(中)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
ホーキング博士の主張や未来予測は2017年6月15日に放送されたBBCのドキュメンタリー番組「新たな地球を求めての旅立ち」で紹介され、世界各国で大きな反響を呼んだ。残念ながら、日本では全く話題にならなかった。日本では森友学園とか加計学園をめぐる「忖度問題」でマスコミは連日大騒ぎ。政治家も次の選挙をどう勝ち抜くかといった短期的視点にしか立たないため、ホーキング博士のような長期的問題提起には誰も関心を寄せないようだ。
これでは国家の命運を誤ることになりかねない。ホーキング博士に限らず、ビル・ゲイツ氏も人類や地球の行く末に関しては危機感を露わにしている。同氏は毎年の如く、未来予測を公表しているが、最新版を見ると、「人類の未来は未知なる危機との闘いの連続」で、「このままでは、人類の生存は危うい」とのこと。
とくに注目すべきは、「地球温暖化の影響で、氷解した凍土から死んだ動物の病原菌が復活し、かつてのスペイン風邪のような猛威を振るい、億の単位で人命を奪う」との未来図だ。18世紀から19世紀にかけまん延した病原菌が再び人類に襲い掛かる恐れが出てきた。なにしろ北極や南極の氷が溶けだしているくらいだ。かつて伝染病で亡くなった人や動物が埋められた墓地や埋葬地から、亡霊の如く感染症の病原菌やウイルスが再生する可能性が高くなっている。予防ワクチンの開発と配布が欠かせないだろう。
とはいえ、最悪の場合には、現代版「ノアの箱舟」計画が必要になる。ゲイツ氏はこうした危機的状況を先取りし、ノルウェーのスピッツベルゲン島に人類救済のための種子の保存を目的とした地下基地を建設しているほどだ。
杞憂に過ぎなければ良いのだが、冷静に今日の世界情勢を分析すれば、ホーキング博士やゲイツ氏の危機感や厳しい見通しに耳を傾ける必要があるだろう。日本でも身近なところで、そうした危機的状況の萌芽を感じることもできる。
例えば、この夏、各地の行楽地は大賑わいだった。なかでも、千葉県浦安市の東京ディズニーリゾートは本年、史上最高の利益を計上しているほどで、新たなアトラクションで人気を集めている。行かれた方はお気づきだろうが、ディズニーではロボットの導入を積極的に進めている最中だ。とくに最近注目を集めているのは、無人飛行機(UAV)やドローンを使ったさまざまなイベントであろう。
日本では以前、総理官邸の屋上に無人機ドローンが不時着したことで、一躍話題となったが、ディズニーの施設ではドローンの活用が日常化している。空中にスクリーンを張り巡らし、そこにマリオネットを浮かべて歌や踊りを演じるといった具合である。こうした演出にはドローンが欠かせない。ディズニーではこうしたロボット・エンターテイメントに関する特許を次々と申請している。また、アメリカではピザや書籍の宅配にもドローンが使われ始めた。確かに、エンタメやデリバリーサービスの分野ではロボットの存在は一般化している。問題は、軍事分野でのロボットの活用であろう。
実はアメリカでは、国防総省(ペンタゴン)が音頭をとり、未来の戦場で活躍するロボット兵士、別名「キラー・ロボット」の研究が急速に進んでいる。毎年のように、ペンタゴンの国防先端技術開発庁(DARPA)主催でキラー・ロボットのコンテストが実施されており、民間の優秀な頭脳をゲットしようとするアメリカ政府の意図が明確に打ち出されているわけだ。日本を含む世界各国からロボット工学の専門家を自負する大学生や若きエンジニアのチームが参加している。
この「ロボティックス・チャレンジ」と呼ばれる競技大会では、ペンタゴンが未来の戦場で導入を図りたいと構想している各種のロボット関連技術が競われる仕掛けになっている。優勝チームには2億円を超える報奨金が授与される。飲まず、食わず、休まず、不平も言わず、働き続けるロボット兵士の実用化が目前に迫っていることを実感させるイベントである。
このイベントに合わせて、ペンタゴンが企画する「キラー・ロボット展」も開催されるため、毎回、専門家の注目が集まる。こちらの展示会にはアメリカの陸、海、空、海兵隊という4軍の最新兵器、とくにレーダーを装着したロボット関連装置が所狭し、と勢ぞろいし、未来の戦場を想像させるものになっている。世界各国から軍事関係者が多数集まり、新たな先端技術の可能性を間近に体験することができるのが売り物なのである。
現在、世界80カ国で殺傷能力を持つロボットの研究開発が進んでいる。その背景には、「将来の戦争においては、ロボットが主役になる」ということが確実視されているためであろう。わが国においても新設された防衛装備庁が目的として掲げる主要な研究テーマのなかに「防衛技術のスマート化・ネットワーク化・無人化」がきっちりと組み込まれている。おおむね20年後の将来の装備品のコンセプトをまとめ上げ、その実現に向けての研究開発のロードマップ作りがすでに始まっていると言えよう。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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