2024年12月25日( 水 )

トランプ大統領のアジア歴訪と習近平総書記の対米戦略(1)

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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏

 アメリカのトランプ大統領によるアジア歴訪の旅が近づいてきた。12日間に渡り、日本を皮切りに、韓国、中国、ベトナム、フィリピンを訪問する。大統領就任以来、初のアジア訪問となる。最大の目的は北朝鮮の核の脅威に対する対応策を各国のリーダーと協議することである。

 「アメリカ・ファースト」を掲げたトランプ大統領であるため、アメリカの雇用を確保、拡大するため、中国はじめ対米貿易赤字を積み重ねている国々に対して通商、貿易交渉を行うことも大きな目的である。

 大統領には、娘のイヴァンカさんや娘婿のクシュナー氏も同行することになっている。これまで大統領選挙の終わった直後から、中国との関係においてはクシュナー氏が水面下の交渉を含めて大きな役割を果たしてきた。中国は、トランプ大統領が当選直後に台湾の蔡英文総統と電話会談を行ったことに警戒心を強めた。

 そのため、王毅外務大臣をニューヨークのマンハッタンに派遣し、クシュナー氏と密かに面談するに至ったものである。当時はまだトランプ政権が発足する前であったため、この秘密の会合はクシュナー氏が所有するニューヨークのフィフス・アベニューにそびえるオフィスビルにて行われた。

 この会談には、トランプ氏の側近グループが顔をそろえた。スティーブ・バノン氏、マイケル・フリン氏、ピーター・ナバロ氏らである。こうした接触を通じて中国はトランプ大統領の対中、対台湾政策に影響を与えようとしたわけだ。娘婿のクシュナー氏とのパイプを通じて中国側の意向を伝えようとしたと思われる。

 アメリカ政府においては、国務省や国防総省、そして商務省などで幹部のポストが空席のままのところが多い。そのため、本来、外交を司る国務省においてもティラーソン国務長官の下で中国や東アジアを担当する実務の責任者が存在しないままの状態が続いている。いわば、異常事態である。

 そのため、いやが上にもクシュナー氏の役割が際立つことになった。とはいえ、トランプ一家の内輪の人間として大統領からの信頼の厚いクシュナー氏には過剰とも思われる重責が与えられている。各省庁間の連絡網を新たに構築する役割を含め、ロシアとの外交交渉や通商政策全般に対する戦略の策定など多岐に渡っている。

 実は、内外からの懸念の表明を受け、ようやくトランプ政権の下でも人事対応が進展し、これまで空席であった上級ポストが徐々に埋まるようになってきた。今回のアジア歴訪を機会に、トランプ政権ではファミリー・メンバーに依存する外交スタイルから、専門家による外交に舵を切る動きが加速するようになった。

 大統領就任直後の5月に行われたサウジアラビア、イスラエル、バチカンへの訪問の時とは大きく異なり、今回のアジア歴訪においては、アジア各国の情勢に詳しい専門家が多数同行することになっている。とはいえ、側近中の側近と言われるピーター・ナバロ氏はこの度のアジア歴訪には同行しない模様である。

 というのは、ナバロ氏は中国に対して極めて厳しい見方をしており、『DEATH BY CHINA(中国による死)』の著作で知られるように、通商政策においても中国による知的財産による侵害などを問題視。これまでも厳しく中国を批判してきた。そのため、第19回共産党大会において2期目の政権運営に乗り出した習近平総書記との会談を控え、対中強硬派のナバロ氏はワシントンで待機することになったようだ。

 というのも、トランプ政権は北朝鮮に対する中国の影響力に期待しているため、通商問題等で反中思考の強いナバロ氏を同行させるのはまずいとの判断が働いたものと思われる。それほどトランプ大統領は中国との関係に期待し、配慮しているに違いない。

(つづく)

<プロフィール>
hamada_prf浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。

 
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