トランプ政権下でいよいよ本格化した官僚機構の反乱(5)
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SNSI・副島国家戦略研究所 中田安彦
2017年12月11日トランプはどうしても心情的に強いイスラエル支持派だから、ネオコン派とはその点で話があってしまうのだろう。トランプが12月になってから、従来のアメリカの政策を撤回して、イスラエルの首都はエルサレムであるということを公然と認めてしまったものだから、これで中東和平交渉の機運が一気に崩れていきそうな雰囲気になっている。ここにスンニ派の大国であるサウジアラビア、それからシーア派の大国であるイランの地域覇権争いが加わり、トルコ・ロシア勢がイランに加勢しているので、中東はISISの崩壊後は「ミニ冷戦体制」(米ロ、あるいはサウジ対イラン)の様相を見せ始めている。
私は、この状況が勢力均衡の状態で安定するか、それとも混乱になるかというのは、ティラーソンが留任できるかどうかにかかっていると思っている。トランプは心情的な親イスラエル・バイアスが強く、副大統領のマイク・ペンスは福音主義派だから、やっぱりキリスト教の聖地の管理者はイスラエルであるべきと考えているのだろう。イヴァンカの夫で大統領上級顧問であるジャレッド・クシュナーはユダヤ人だし、今はロシア疑惑の渦中にあるので、ネオコンからの圧力には弱そうだ。そうなると、リアリストであるティラーソン(とキッシンジャー)が重要になってくる。
私は以前「トランプ政権は8割がたロシア疑惑を乗り切った」と書いた。だが、今もロシア疑惑に関する報道は後を絶たない。10月30日には、一時、選挙対策本部長を務めたポール・マナフォートほか2人が偽証罪と資金洗浄などの容疑で逮捕され、12月1日には、最初の国家安全保障担当補佐官で、政権発足後わずか24日でクビになった、マイケル・フリンも偽証罪で逮捕された。「残り2割」のほうがまだしぶとい。
ロシア疑惑も、この大きな政治権力闘争のレンズで見なければいけない。ロシア疑惑というのは、「ロシアは親ロ派のトランプを当選させるために、ヒラリーにとって不利な情報を流した。トランプもしくは政権の陣営幹部が直接ロシア側の政府とつながりのある勢力と接触しており、その当選への秘密工作への見返りとして、トランプ政権は、オバマ政権が課したロシア制裁を緩めることで応じた」という裏取引のことだ。そのなかの批判の1つとして、トランプ側の人間が、大統領選挙や当選後の就任式までの「政権移行期」に、ロシア側の人間と面会したこと自体が批判されている。これが、民間人の直接外交を禁止した、「ローガン法」に違反するというのだ。
しかし、この法律で実際に処罰されたアメリカ人はいまだかつて存在しないし、政権移行期に外国の政府要人と面談をすることは、これまでの政権でも行われていた、とFOXニュースは報じている(反トランプのCNNはその辺をあまりはっきり言わない)。トランプが政権発足前に外国要人と会ったことが問題になるなら、トランプが選挙戦中にメキシコを訪問してペニャニエト大統領と会談したことも問題になるし、安倍首相と当選直後にトランプタワーで会ったことも問題になる。しかし、この2つについてはまったく問題になっていないのだ。たしかに、政権移行期に制裁解除論議とその見返りについて、政権の幹部となる人物が議論をしていたら、これは問題になる。しかし、今のところはっきりとした証拠は上がっていない。
(つづく)
<プロフィール>
中田 安彦(なかた・やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。関連キーワード
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