2024年11月19日( 火 )

今、小売業に何が起きているのか チェーンストアの歴史と現在地(6)

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 さまざまな生命が生まれては滅亡し、また多くの文明が誕生しては終焉を迎えた。長い間ほとんど変化とはほぼ無縁だった小売業に、人類登場よろしくスーパーマーケットなどのチェーンストアが誕生したのはつい100年ほど前である。それからというもの小売業界は極めて大きな変化を始めた。こうして起こった地殻変動は今も轟々と続き、かつて一世を風靡したスーパーマーケットすら新しい商流に押し流されようとしている。

広大な「アマゾン川」

 アメリカでは今、高い知名度を誇った大規模小売業の凋落が鮮明になっている。以前は日本からの見学者が大挙して訪れた衣料チェーンのGAPが先ごろ今後3年間で200店を閉鎖すると発表した。大手玩具チェーンのトイザラスも連邦破産法11章(日本の民事再生法)を申請した。

 大手家電チェーンも最大手のベストバイ以外はすでに姿がない。書籍チェーンのボーダーズはすでに市場から撤退し、バーンズ&ノーブルも今や青息吐息である。これらの状況を招いたのはいうまでもなくアマゾンである。

 強いてアマゾンに影響されないといえるのはホームセンターの最大手のホームデポなど一部の専門店だ。彼らが取り扱う大型商品や工事用具などは、通販での配送に少なからず問題を残す。しかもDIYのお客は「見て触って比較して」という部分が少なくない。しかし、そのホームデポも最近はリアル店舗の出店を止めている。

 その代わりに力を入れているのはアマゾンと同じネット受注だ。ただし、こちらは店舗まで商品を取りに来てもらうやり方が中心だ。お客はネットで在庫の有無や価格、売り場位置をたしかめ、ネットで事前発注して商品を用意してもらい、併せて必要なものは直接店頭で購入するのだ。この分野の市場は2億アイテムのアマゾンも手が出せない。ホームデポは店舗の増加なしで、確実に売上を伸ばしている。

アマゾンブランドのリアル店舗が伸長

 アマゾンに戻るが、彼らはもはや単なるインターネット通販業者ではない。先ごろ、アメリカの有名スーパー、ホールフーズを日本円で1.5兆円余りかけて買収した。その一番の理由は約8,000億ドルといわれるアメリカスーパーマーケット市場への本格参入だろう。

 この10年余り、アマゾンフレッシュで生鮮の宅配を試みたものの、なかなか思うようにいかなかったといっていい。そんなアマゾンがホールフーズという超有名なクオリティースーパーマーケット450店舗を買収したのは、そのリアル店舗網を利用しての「生鮮宅配」を考えたからだ。

 さらに買収直後、高価格でそれなりのクラスのお客しか手が届かなかったホールフーズの商品の値下げを始めた。生鮮品を中心にモノによっては30~40%の値下げ。良いか悪いかは別として、その後の客数増加には目を見張るものがあるという。ホールフーズも一部宅配を行っているだけに、今後アマゾンとの相乗効果が十分に期待できるのかもしれない。

 それだけではない。リアル書店の出店も始めている。その目標は300~400店。自らが駆逐したリアル店舗の領域にあえて踏み込む。オーナー企業ならではの英断である。まさに「make a difference」。もし、アマゾンがサラリーマントップならおそらくこんな決断は暴挙と評され、その実現はほとんど不可能だろう。

小売以外の業界にも伸びるアマゾンの手

 さらにアマゾンは小売以外の業界にも手を伸ばす。たとえば、いま日本では配送運賃の上昇が問題になっているが、これは即、通販コストの上昇に直結する。規模拡大は順調だが、利益や配当といった部分に余裕がないアマゾンにとってこれは小さくない問題だ。そう考えるとおそらくアマゾンは自社アプリを開発し、この業界にも乗り込むはずだ。運送業界のウーバーである。

 そのウーバーだが今すこぶる評判が悪い。もし、その経営がおかしくなればそこにもおそらくアマゾンは手を出す。アマゾンの「make a difference」に終わりはない。

 食品でいえば、今後はホールフーズの店頭にネット通販の受取ロッカーを設けるはずだ。いわゆるネットオーダー、店頭ピックアップというやり方だ。店頭まで来てもらえれば、店舗での買い物にもつながる。

 しかし、あの品のよいホールフーズの店頭にアマゾンのロゴを冠した「アマゾンボックス」が鎮座する様子は想像しただけでもがっかりであるが、やれることは何でもやる貪欲さが新しいニーズを掘り起こし、生き残りの有力な武器になるということである。

 問題はこれらの現象が対岸の出来事ではない点にある。今やアマゾンは衣料品の世界最大企業になろうとしている。通販に限れば家電でも同じだ。我が国でもいつの間にか1兆円企業の仲間入りをはたし、その伸びは既存の日本小売業をはるかにしのぐ。

(つづく)

<プロフィール>
101104_kanbe神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年生まれ、宮崎県出身。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

 
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