ロシア復活に邁進するプーチン大統領の野心と実力(中)
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国際政治経済学者 浜田 和幸 氏
欧米諸国から人権問題に絡む批判を受けても、習近平は「どこ吹く風」と言わんばかりで、ユーモアたっぷりに切り返す。曰く「靴が合っているかどうかは、靴を履いている本人しか分からない」。厳しい批判にも、中国式の知恵を絡めた自信と迫力で対応する。
プーチン大統領も同様である。両人とも「歴史を味方につけ、相手を煙に巻く」といったテクニックを得意技としている。発言や演説には必ずといっていいほど、ロシアや中国の歴史に触れる場面があるからだ。習近平の場合、建国の父である毛沢東の偉業に触れつつ、革命の歴史を語り、14億人を超える国民の気持ちを奮い立たせるのが常である。
「歴史は最も良い教師だ。1840年のアヘン戦争から1949年の新中国成立までの100余年、中国社会は頻繁に戦火に脅かされ、絶えず戦禍に見舞われた。日本の軍国主義が発動した中国侵略戦争だけで中国の軍民に3,500万人以上の死傷者を出す惨劇を引き起こした」と、大演説をぶつ。
数世紀にわたり西欧列強や日本に植民地化され、自然や人的資源を収奪されたという負の歴史を塗り替えるには、中国4000年という他に類を見ない悠久の歴史、言い換えれば、決して「奪われることのない富」をもちだす手法をフルに生かすのである。
同様に、プーチン大統領も国内向けの演説においては「祖国ロシアは過去500年の間、たびたび西欧列強による侵略を受けてきた。この歴史を忘れることはできない」と訴え続ける。そのうえで、民族的偉大さと膨大な天然資源を合わせた「未来の超大国」というイメージを強調することを忘れない。
加えて、両人には国際的な批判を受けているという不名誉な共通点もある。具体的には、ロシアにおいては、クリミア併合を含むウクライナ問題だ。現時点でもウクライナ東部では戦闘が継続している。また、中国でいえば、南シナ海での相次ぐ岩礁埋め立てによる軍事基地化やアメリカへのサイバー攻撃が引き金となっている。
いずれの場合も、国際的なルールを無視した「力による現状変更」として、欧米や日本では評判がすこぶる悪い。結果的に、アメリカ主導の経済制裁の対象になり、国際的な不信感が増す原因となっているわけだ。ロシアにとっては「ウクライナもシリアも自国の生存に欠かせない資源や不凍港の確保に必要なもの」という論理であろう。もちろん、中国には中国の主張がある。それゆえ、プーチンも習近平もあらゆる機会をとらえて、反論に余念がない。
海外からの批判に対するプーチンや習近平の反論手法には共通点がある。習近平の場合「体つきがどんどん大きくなる中国を見ると、中には憂慮し始めた人々もいるし、いつも色眼鏡をかけて中国を見ている人々もいる。彼らは中国が発展し勃興すれば、必然的に一種の脅威になるとし、中国を恐ろしい悪魔のメフィストテレスのように描く。まるで、いつの日か中国が世界の魂を吸収してしまうとさえ考えているようだ。実に困ったものだ。ことほど左様に、偏見とは取り除くのが難しい」。
とはいえ、そのような弱音を吐露したうえで、歴史を味方につける発言を繰り出し、形勢逆転を目指すのが習近平流だ。曰く「人類の歴史を振り返ってみると、人々を隔てるのは山河でもなく、大海でもなく、人間同士の相互理解、相互認識を遮る見えない壁である。ライプニッツが言ったように、各自の才能を相互交流して初めて、ともに知恵の明かりを灯すことができる」。
もちろんプーチンも負けてはいない。「孔子や老子など中国古代の思想家はロシア人民にとってなじみのある存在である」と応じている。要は、中ロの2人の指導者は事あるごとに互いの距離感を縮める言葉を「交流」」しているのである。
こうした歴史や文化をネタにした演説ではトランプ大統領の出る幕はない。共同戦線を張るためには、お互いの歴史や文化を知らねばならないが、トランプ大統領にとっては最も苦手な世界といえるからだ。
習近平は2013年、モスクワ大学の講演で次のように述べている。「中ロ関係は世界で最も重要な2国関係であり、しかも最も良好な大国関係である。双方の20年以上の絶えまない努力によって両国は全面的な戦略協力パートナーシップを築いてきた。歴史が残した国境問題を徹底的に解決し、中ロ善隣友好協力条約に調印し、長期的な発展に強固な基礎を固めた。中ロ関係は終始、中国外交の優先方向である」。これ以上ないと思えるような中ロ関係礼賛の言葉のオンパレードだった。
プーチン大統領も「ロシアは繁栄かつ安定した中国を必要としている。一方、中国も強大かつ成功したロシアを必要としている」と阿吽の呼吸で応えている。さらに、プーチン曰く「中国の声は世界に響きわたっている。我々はそれを歓迎する。なぜなら、平等な国際社会をつくるという視点を共有しているからだ」。
しかも、注目すべきは、その協力のあり方をアピールする際に、共通の敵としての「日本」をもち出すという「歴史カード」を切っていることである。何かといえば、抗日戦争における旧ソ連のパイロット、クリシェンコ氏のことだ。日本では無名の存在だが、彼は中国軍兵士とともに戦い、戦死した軍人にほかならない。彼の残した言葉を今さらの如く繰り返すのである。
曰く「私は我が国の災禍を体験するかのように、中国の働く人々が今被っている災難を体験している」。習近平はこのロシア人パイロットのことを「中国人は英雄として忘れていない」と持ち上げる。そのうえで、「中国人の親子が半世紀にわたり彼の墓を守り続けている」と紹介しているのである。
そうした延長線上にロシアと中国は日本に対して共同戦線を展開する傾向も見られる。2015年以降、地中海はもとより、ウラジオストック周辺の日本海においても、中国とロシアの共同軍事演習の機会が増えている。2018年には中国の青島周辺での共同軍事演習が予定されている。
その背景には、この2人の指導者の強い軍事力信奉傾向と、アメリカ主導の戦後体制に挑戦し、新たな政治、経済の仕組みを形成しようとする強い意志が隠されている。北方領土の共同経済開発についても、ロシアは日本が積極的に対応しないなら、「中国企業を誘致する」との脅しを平気で仕掛けてくる。
(つづく)
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。
今年7月にネット出版した原田翔太氏との共著『未来予見〜「未来が見える人」は何をやっているのか?21世紀版知的未来学入門~』(ユナイテッドリンクスジャパン)がアマゾンでベストセラーに。関連キーワード
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