2024年11月24日( 日 )

集団的生存戦略を駆使し、無縁社会を乗り切るには(前)

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大さんのシニアリポート第66回

 今回上梓予定の『親を捨てる子 子を捨てられない親』(仮題 平凡社新書 発売日未定)のなかで、親を捨てる子どもたちの実情を、運営する「サロン幸福亭ぐるり」(以下、「ぐるり」)での「棄老事件」などを通して詳報した。子どもの貧困化を背景に、戦前まであった家長を頂点とする「大家族制度」というヒエラルキーの崩壊と、生活の基本である建物としての「家」の狭小化などによる「親子の分断」が主原因であるとした。結論として、親は自らの意思で子を捨て(完全子離れ)、無縁社会のなかで新しい関係を再構築することを模索すべきときがきたということだ。

 「ぐるり」の来亭者にも、私個人の周辺でも、集団の会話で子どものことが話題に上ることはほとんどない。ところが、私(「ぐるり」の亭主)と一対一で話す機会があると、不思議と「家」の話、とくに子どもの話がでてくるのである。自慢話もするが、愚痴をこぼすことのほうが圧倒的に多い。2012年、「幸福亭」(「サロン幸福亭ぐるり」の前身)時代、「元気な高齢者でいるために」と題して来亭者にアンケートをとり、討論集会を開いた。設問の答えのなかに、子どもに対する「期待と現実」の乖離が見え隠れしていた。再度検証してみたい。

(1)これから先、子どもに迷惑をかけたくないと思いますか?

(思う)
・子どもに生活力がないから/子どもにも家族がある。結婚相手に迷惑をかけると夫婦仲に悪影響をおよぼすことが心配/子どもに負担をかけるのは心苦しい。考えただけで本当に申し訳ないと思う/不況の中、子どもたちに親を看る余裕がない。精神的にも負担をかけたくない/子どもたちの生活基盤が弱い。とても親への種々の支援は無理。

(思わない)
・子どもができることをしてくれれば良い(してくれなくともいい)。/自分は親の介護をしながら子どもたちを育ててきた。自分が年をとってきたら今度は子どもたちが自分たち夫婦(親)の面倒を看るのは当然。この世は順番。子どもたちの生活状況を心配しすぎ。

(2)社会的に高齢者が大切にされていると思いますか?

(思う)
・日本自体が平穏。そのことが幸せの素/行政の安否確認も充実。高齢者のために働いてくれる機関のほうが平等に親切。

(思わない)
・昔の教育は年寄り、とくに家庭において曾祖父、両親を大切にするという倫理観があった。子どもが一生懸命働いて親の面倒を看るのが当然だった。今は親の金を目当てに(仕方なく)面倒を看るという風潮だ。それでも面倒を看るのはまだいい方/年寄りは社会から捨てられている気がする。必要とされて、初めて人の生きる意味があると思う。

(3)終末のために身辺整理をしておくことは大切だと思いますか?

(思う)
・子どもたちに負担をかけたくない/当たり前のことを質問するな/自分の過去はすべて焼却したいから/残された人が困るから。恥じないように整理する/死後、たとえ業者に処分してもらっても、業者という“他人”に見られるのが嫌/ガラクタに囲まれて生活しているので、残されたら困るでしょう/身動きができなくなってから、大切なものを残すのは辛い。

(思わない)
・人はギリギリまで生きたいと思う。そうすると整理する時間がなくなる。残された人に迷惑をかけても仕方がないのでは/(亡くなった人のことを慈しみながら)喜んで片付けてくれる人もいると思う。みずから自分の思い出を消し去ることは辛い/整理するということが、自分の死を確認する作業のように思えるので嫌だ。

(4)自分の葬式(お墓)について、考えたことがありますか?

・すべて子どもに任せる。希望はいう/墓があると守るのが大変/身内だけの家族葬がいい。遺骨は海に散骨/墓も葬式代も準備してある。心温まる葬式を期待したい/葬儀や墓守を子どもたちに任せるのは大変。直葬で納骨堂に安置してくれれば良い/葬式と墓は重要。子どもたちばかりではなく、兄弟たちにも亡くなった人たちを思い出す場所だと思う。散骨や合祀は可哀想/人生最大の出来事。できる限り子どもたちに負担をかけたくないので、墓もつくりました/すべて不要。葬式や墓に金をかけるくらいなら、生きている自分の幸せのために使いたい。死んで花実は咲かない。

(つづく)

<プロフィール>
大山眞人(おおやま まひと)
1944年山形市生まれ。早大卒。出版社勤務ののち、ノンフィクション作家。主な著作に、『S病院老人病棟の仲間たち』『取締役宝くじ部長』(文藝春秋)『老いてこそ二人で生きたい』『夢のある「終の棲家」を作りたい』(大和書房)『退学者ゼロ高校 須郷昌徳の「これが教育たい!」』(河出書房新社)『克って勝つー田村亮子を育てた男』(自由現代社)『取締役総務部長 奈良坂龍平』(讀賣新聞社)『悪徳商法』(文春新書)『団地が死んでいく』(平凡社新書)『騙されたがる人たち』(近著・講談社)など。

 
(65・前)
(66・後)

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