昨今M&A事情(3)~RIZAPグループ、「プロ経営者」カルビーの松本晃会長をCOOに招くワケ(後)
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国際会計基準では経営不振企業が利益をもたらす
RIZAPグループは、なぜ、経営不振企業ばかり買収してきたのか?
狙いはのれん代にある。のれん代とは、企業の買収で支払った金額と買収先の純資産の差額をいう。同社が採用している国際会計基準(IFRS)では、高く買収した場合に4年目期首に資産価値を見直し、収益が上がっていなければ減損処理をしなければならない。高値で買収した海外子会社がIFRSを採用していたため、巨額な減損損失を計上して海外M&Aが失敗に終わるケースは少なくない。逆に、安く買収した場合は、負ののれん代として一括で利益に計上できる。RIZAPグループは、負ののれん代(割安購入益)によって利益をかさ上げしてきた。同社は内需産業なのでIFRSの必要はなかったが、IFRSが利益を生みますよと指南した知恵者がいたのだろう。
買収に買収を重ねた結果、18年3月期の連結決算(IFRS)は、売上高に当たる売上収益は前の期と比べて43%増の1,362億円。たった6年で10倍に急膨張した。本業の儲けを示す営業利益は33%増の135億円。このうちM&Aによる割安購入益が74億円。営業利益の55%を占める。負ののれんが利益をもたらす。経営不振企業ばかりを買収してきた理由だ。
しかし、買収資金を借り入れで調達するため、有利子負債は768億円と1年で1.8倍に膨らんだ。ジムの客には減量を促すのに、企業体質はメタボリックシンドローム症候群と診断される。ことわざでいう「医者の不養生」である。
買収した経営不振企業をピカピカの財務内容に再生しなければならない。その再生のために「プロ経営者」の松本晃氏を“七顧の礼”で招いたのである。
プロ経営者は「名伯楽」になる
松本晃氏は、なぜ多くのオファーのなかでRIZAPグループを選んだのか。日本経済新聞(6月2日付朝刊)のインタビューでこう語っている。
〈瀬戸健社長に尽きる。こんな面白い人が日本にいるんだと思って。(中略)瀬戸君はタイプが違うけど(ソフトバンク社長の)孫(正義)さんの若いころの雰囲気がある。2人ともじじ殺しだね。とにかくこの人を一流の経営者にしたら面白いと。〉
たしかに2人ともじじ殺しである。小型電卓の開発で世界に名を轟かせたシャープの元副社長の佐々木正氏は、まだ学生だった孫正義氏と会った時、「目の輝きが異様に鋭い。これはただものではないと感じた」と回想している。
銀行界で「為替の神様」と称された安田信託銀行(現・みずほ銀行)会長・笠井和彦氏を孫氏は三顧の礼で迎えた。笠井氏は孫氏の軍師として「錬金術師」といわしめる手法を指南した。
瀬戸健氏は、伊藤忠商事の岡藤正広社長を糖質制限でファンにした。そして、プロ経営者の松本晃氏を軍師に招く。名伯楽の調教によって、地方競馬の暴れ馬はクラシックレースを出走する駿馬になれるか。乞う、ご期待だ。
(了)
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