政治経済学者 植草一秀
6月7日の日曜日にブログ記事「内外株式市場に変調の兆し」https://x.gd/t2CUjと題する記事を掲載した。内外株式市場で活況が続いてきたが、潮の流れが大きく転換する予兆があるとした。未来を断定することはできない。しかし、これまでの変化をほぼ正確に予測してきた立場からの見解提示であることを付言しておきたい。
日経平均株価は2012年11月13日の終値が8,661円だった。この日、野田佳彦氏が「自爆解散」を宣言した。選挙に突き進めば野田民主党は崩壊する。間違いない情勢だった。野田氏自身がこれを見抜けなかったのなら恥ずかしい。
もっとも野田氏は本年2月の総選挙に向けて中道改革連合を創設。これで勝利できると考えたと見られるから勝負勘を持ち合わせていないことは明白なのかもしれない。新党創設の旗を掲げた五人衆。野田、斎藤、安住、西田、馬淵。高齢男性5人で5Gと呼ばれた。5Gで選挙に勝てると考えるのがおかしい。
日経平均株価は2012年11月13日の8,661円から2026年6月3日の6万8,786円まで上昇した。13年半の時間をかけて8倍の水準に跳ねた。直近1年強の株価上昇を牽引したのはAI・半導体関連企業の株価。すさまじい上昇を示した。同じようなすさまじい上昇を示したのが金価格。こちらも本年1月にかけてすさまじい上昇を示した。しかし、その後に価格下落局面に転じている。
AI・半導体関連企業株価急騰のチャート形状は金価格に酷似している。AI・半導体株価暴騰が重要な局面に差し掛かっている可能性があると判断して6月7日記事を掲載した。日本の株価バブル崩壊の起点は1989年12月28日。日経平均株価は3万8,915円だった。この株価が下落に転じて2003年4月28日に7607円になった。最安値をつけた背景はりそな銀行危機だった。
「創作された危機」だが、小泉竹中政権の標的にされたりそな銀行は自己資本不足の認定を「創作」された上、公的資金で救済された。「自己資本不足認定」によってりそな経営陣が一掃され、小泉竹中近親者が新経営陣に送り込まれた。
他方、銀行そのものは公的資金で救済された。「大銀行破綻も辞さない」という竹中平蔵氏の言葉によって株式の投げ売りが広がったのが2003年危機の発端。大銀行破綻は金融恐慌突入を意味する。超割安の株式でも倒産すれば紙くずになる。しかし、竹中金融行政は最終的に自己資本不足銀行を公的資金で救済するシナリオを保持し、このシナリオに沿って動いたと見られる。
シナリオを知る者にとって株価大暴落は千載一遇大チャンス。5月17日のりそな銀行救済によって巨大な不労所得を獲得した勢力が確実に存在する。巨大なインサイダー取引疑惑が存在する。私はテレビの経済情報番組で証券取引等監視委員会がりそな銀行株式の売買手口を調査する必要があると指摘した。しかし、証券取引等監視委員会は動かなかった。これが2003年春のりそなの闇である。
りそな銀行は2003年5月から「自民党の機関銀行」と化した。りそな銀の対自民党融資が激増。このことを2006年12月18日付の朝日新聞が1面トップでスクープした。この記事を執筆したと言われる朝日の鈴木啓一記者は記事が掲載される日の前日に東京湾で水死体となって発見されたと伝えられている。
他方、2003年4月の朝日監査法人内部での会議。りそなの自己資本不足についての論議があった。りそな担当の会計士であった平田聡氏はりそな銀行の自己資本不足は認められないとの意見を提示したと見られる。その平田聡氏は会議終了後、自宅マンションの12階から転落死した。「自死」で処理されたが「他殺」であった疑いは払拭されていない。
日経平均株価は1989年12月から2003年4月にかけて13年半下落を続けた。株価水準は5分の1になった。これがバブル崩壊である。2003年4月の公的資金によるりそな銀行救済を契機に株価は上昇に転じ、2007年にかけて、日本の不動産価格を含めて「ミニバブル」の様相が示されたが、2007年から2009年にかけて米国発の「サブプライム金融危機が発生して日本にも波及。その後、菅直人内閣、野田佳彦内閣が「超緊縮財政運営」を強行して株価は2012年11月まで低迷を続けた。その日経平均が2012年11月の8,661円から2026年6月の6万8,786円まで上昇したと記述した。
このことをもって日本経済が順調に推移しているかの説明があるが、まったく違う。
日本経済の実質成長率は1994年から2025年までの平均値で+0.6%。ほぼゼロ成長が30年間続いている。2009年から2012年までの民主党政権時代の成長率平均値(四半期実質GDP年率成長率の単純平均値)は1.6%だったが、2012年の第2次安倍内閣以降の成長率平均値は0.9%。第2次安倍内閣は「アベノミクス」の中心に「成長戦略」を置いたが、日本の経済成長率はまったく上昇しなかった。これはいまもまったく変わらない。
経済がまったく成長していないのに株価が上昇した主因は企業利益の拡大だ。企業利益が史上空前の水準に拡大している。経済成長が実現しないのに企業収益が拡大したのは、企業が払う賃金が減ったからだ。労働者一人当たりの実質賃金は1996年から2025年までの30年間に2割減少した。2012年12月の第2次安倍内閣発足後に1割減った。労働者に払う賃金を減らして企業利益が拡大してきた。その企業利益拡大が主因で株価上昇が実現してきた。しかし、その株価上昇に変調の兆しがある。
日本経済を取り巻く環境は厳しさを増している。第一にイラン戦争。中東からの原油および石油関連製品の輸入が激減している。備蓄を取り崩してしまえば不足が顕在化する。
第二は日中関係崩壊。高市首相の誤った発言で日中関係が崩壊の危機に直面している。台湾有事があり、米軍が来援し、戦艦が使われ、武力の行使を伴う場合は「どう考えても存立危機事態になり得るケース」と述べた。
日本は台湾の中国帰属を認めている。また、日中両国政府は日本と中国との問題は平和的手段で解決し、武力の行使および武力による威嚇に訴えないことを確認してきた。高市発言がこれらの日中外交の積み重ねに反するものであったことは明白。高市首相が発言を撤回して謝罪しない限り、問題が解決しない可能性が高い。
日中関係が悪化して中国から日本への来訪者は激減。レアアース供給も激減している。日本の不動産市場からチャイナマネーが蒸発し始めている。さらに、輸出企業に有利だった日本円暴落が、これから流れを変える可能性もある。単に株価が方向転換するだけでなく、日本経済が底割れする可能性が浮上しつつある。
<プロフィール>
植草一秀(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)代表取締役、ガーベラの風(オールジャパン平和と共生)運営委員。事実無根の冤罪事案による人物破壊工作にひるむことなく言論活動を継続。経済金融情勢分析情報誌刊行の傍ら「誰もが笑顔で生きてゆける社会」を実現する『ガーベラ革命』を提唱。人気政治ブログ&メルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。1998年日本経済新聞社アナリストランキング・エコノミスト部門第1位。2002年度第23回石橋湛山賞(『現代日本経済政策論』岩波書店)受賞。著書多数。
HP:https://uekusa-tri.co.jp
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