福岡県歯科保険医協会が5月に開催した第49回定期総会で「いま求められる『メディア』の役割とは~『NG記者』だから見えるもの」と題して講演を行ったジャーナリストの鈴木エイト氏の講演録を同協会事務局から提供いただいたので掲載する。
同協会は、福岡県内の歯科医が加入しており、「健康保険で良い医療」という原点にたち、国民が安心して受けられる保険医療の実現を目指している。全国組織として全国保険医団体連合会(保団連)に加盟している。
定期総会には、自民党から立憲民主党、国民民主党、公明党、共産党まで超党派の国会議員・地方議員が祝電やメッセージを寄せていた。
なお、今月末をもって原則として健康保険の利用登録をしたマイナンバーカード(マイナ保険証)または資格確認書による資格確認が必要となり、紙の保険証を医療機関で使用することができなくなる。博多駅前で27日、同協会に加盟する医療関係者などが、8月からの健康保険証廃止に対する抗議活動を行ったほか、31日に福岡市内で「健康保険証の完全廃止」に抗議する記者会見を行う予定。
「NG記者」だから見えるもの
鈴木エイト氏が総会記念講演
5月23日、当会(福岡県歯科保険医協会)は第49回定期総会の後に、鈴木エイト氏(ジャーナリスト・作家)による記念講演会「いま求められる『メディア』の役割とは 『NG記者』だから見えるもの」を開催し、約100人が参加した。講演要旨は次の通り。
旧統一教会と政界の癒着を追及
2002年、渋谷の路上で、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)による正体を隠した偽装勧誘の現場に遭遇し、介入して阻止したことが追及の始まりだった。阻止活動を続けるうちに、勧誘員自身が同様の偽装伝道により、詐欺的な手法すら正しいと刷り込まれているのがわかり、「善意で悪事をなす」被害が連鎖するカルト問題の構造に気づく。
2009年、ニュースサイト「やや日刊カルト新聞」に、ライターとして参加(現在は主筆)。これがジャーナリストに転身する契機となる。統一教会による地域や教育への侵食、2世信者問題など取材領域を広げてきたが、最も力を注いだのが統一教会と政界との癒着だ。
政治家には、党派性なく追及している。統一教会が青年信者を大量動員して選挙運動を展開し、民主党(当時)の新人を足立区議にトップ当選させた問題を報道した際には、同党顧問弁護団から記事を掲載しないように通告する文書が届いたが、屈せずに報道した。信者を運動員として最大限利用して、追及された途端に「知らなかった」と虚偽の弁明をして信者を使い捨てにする政治家はカルトよりもひどいと感じる。
追及は国会議員、政権中枢に拡大する。統一教会が最も非難されてきたのが、霊感商法とエンドレスな高額献金の収奪だ。2009年、統一教会系の会社が「先祖の因縁で不幸が起こる」などと不安をあおり、高額な印鑑を売りつけた容疑で、警視庁の家宅捜索を受けた。教団本部に強制捜査が入るかと思われたが、摘発は止まる。背景には、警察官僚出身の大物政治家による口利きがあったと見られている。
2017年、統一教会の集会で韓鶴子総裁を「マザームーン」と称えた、自民党の山本朋広防衛副大臣(当時)に直撃取材した際には警察に虚偽通報され、2世信者の集会でスピーチした菅原一秀経済産業大臣(当時)の事務所を取材で訪れたときには、虚偽通報されただけでなく建造物侵入罪をでっちあげられて刑事告訴まで受けた(不起訴)。
2021年9月、統一教会の関連団体である天宙平和連合が開催したウェブサミットで、安倍晋三前首相がリモート登壇して韓総裁を礼賛。教団被害者や脱会した元信者からは「憤りと絶望を覚えた」「なぜマスコミは報じないのか」といった苦痛の声が次々と寄せられた。どうすれば取材の成果を社会に伝えられるのか、私も途方に暮れた。
そして、2022年7月8日、奈良市で参院選の応援演説中だった安倍元首相が、統一教会の2次被害者である山上徹也被告から銃撃されて死亡した。私には、多数のメディアから取材依頼が殺到。各メディアから、私が長年の取材で得たデータの提供依頼もあり、オープンソースにして無償で提供した。この問題は私だけで抱え込むべきではなく、さまざまなメディアと一緒にワンチームで追及したいという思いがあるからだ。
なぜ銃撃事件は起きたのか。カルト被害者に「自力救済」させたのは、私も含めたメディアの敗北。裁判の傍聴、山上被告との4回にわたる面会を通して辿り着いた真相は、新刊『アンビバレント 山上徹也が私だけに明かした謎の核心』(講談社)に記している。
HPVワクチン問題も追跡
HPVワクチン問題も追っている。子宮頸がん予防を目的に、2013年に定期接種となり、思春期の女性への接種が推奨されたワクチンだが、不随意運動などの副反応疑い報告が相次ぎ、政府は定期接種対象のまま積極的勧奨を中止した。2016年に集団訴訟が提起され、「重大な副反応をもたらす危険なワクチン」という報道・認識が拡大。その後、国内外での大規模な疫学調査などで、薬害ではないとの科学的なエビデンスが積み上がっていった(2022年に積極的勧奨が再開)。
裁判では、原告側が「スポーツや勉学に熱中して希望に満ちていた女性たちが、接種後の重篤な副反応によって夢と希望を打ち砕かれた」という主旨の意見を陳述。しかし、製薬会社代理人の反対尋問では、接種前に原告女性たちが受診していた医療機関のカルテから、原告女性たちには家庭内や学校でのトラブルなど複数の心理社会的因子があり、さまざまな既往症に悩まされていたことが明らかになった。原告の症状はワクチンとは関連性がなく、「転換性障害」や「機能性身体症状」といった心理社会的因子から生じる疾患だと考えられる(※裁判は係争中)。
原告を支援する議員・弁護士を含めて、法廷内に悪意をもった人は1人もいないことが、この問題をより複雑にしている。原告女性やその家族は、一連の騒動の一番の被害者。被害を訴える人たちへの適切な受け皿が十分に用意されていなかったことも問題を複雑化させた要因の1つ。今後、どう原告女性を守るのか、社会の課題は山積している。
メディアの役割とは
メディアの役割は「権力の監視」。社会的弱者の側に立って、弱者の声を聴くことは常に必要であり大切。だが、弱者の声がいつも正しいとは限らない点にも留意すべきだ。
最新の科学的知見を基に報道を更新する姿勢も求められる。選挙報道に関しては、各候補に同じ時間や紙面を割くような「量的公平」ではなく、各候補の主張の背景や争点を分析してバランスをとる「質的公平」が求められる点も強調したい。
創業者による性加害の問題で記者会見した旧ジャニーズ事務所がつくった、決して質問させない「NG記者リスト」に私が入っていたのを知ったときは嬉しかった。それだけ私が追及したポイントが都合の悪い内容だったということ。「NG記者」だから見える光景を、これからも報道したい。
【近藤将勝】








