『贈答用苦戦』の流れのなか加工食品で再生へ~福岡・明太子業界(後)
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今から10年前、福岡の明太子業界で主要企業の倒産が相次いだ。当時は、リーマン・ショックにともなう不況により贈答用が苦戦を強いられたほか、過剰な設備投資にともなう借入過多に苦しんだ末、破産を選択した企業が多かった。しかし、現在では、経営破綻する企業は少なくなってきている。その背景には、贈答用の一本物の「真子(まこ)」から一口サイズに切り分けられた徳用品の「切れ子」、さらに加工食品や菓子の原料となる魚卵の粒「ばら子」など消費ニーズが多様化してきたことが挙げられる。
「めんツナ」「めんべい」明太子加工食品が台頭
消費ニーズの変化とともに、明太子メーカーの売上構成比は、明太子の比率を縮小し、加工食品や外食産業などの比率が高くなってきた。明太子メーカーの主力商品であるはずの明太子は、売上構成比を大きく減らしている。明太子は、昔からコンビニのおにぎりの具材やパスタソースの原料として活用されてきたが、近年では各社、原料ではなく加工食品に力を入れている。
大手のふくやは昨年末、テレビ番組で有名芸能人が取り上げて話題となったツナ缶の明太子味「めんツナかんかん」の累計販売数が350万個を突破したと発表した。同商品の同社売上高に占める割合は15%~20%。金額に換算すれば22億~30億円を計上できるほどに成長している。
同商品は、国産のビンナガマグロのツナフレークに、ふくやの「味の明太子レギュラー」の付け込み液を加えたもの。一缶300円と通常のツナ缶の3倍以上の値段だが、新幹線や空港を利用する際の酒のつまみやちょっとしたお土産として重宝されている。同社は13年よりチューブタイプの明太子「tubu tube(ツブチューブ)」を販売するなど、いろいろな加工食品に挑戦しており、常に話題をつくっている。
山口油屋福太郎の「めんべい」のヒットは驚異的だ。タコせんをヒントにつくられたこの商品は、現在、9つの味(プレーン、ねぎなど)と11個のご当地コラボ(熊本、長崎など)の20種類あり、年間約33億円を売り上げている。同社の明太子の製造販売事業は約14億円であり、主力商品の倍以上の売上を計上していることになる。
また、やまやコミュニケーションズのように、「もつ鍋やまや」などを展開する飲食店事業に注力する企業もある。同社は、「博多の幸うまだし」シリーズを手がけ、ダシの分野にも参画。長崎県産焼きあごを始め、枕崎産鰹節、九州産原木栽培シイタケ、枯鯖節熊本産うるめ鰯節、北海道利尻昆布などの高級食材を使用しただしを開発している。
このように同社では明太子から派生していない商品も積極的に開発している。いずれも本業の明太子では将来、売上がジリ貧になることを見越して、スタートした事業であると見られるが、いずれも業績の下支えになっている。
楽天市場に1万5,000件超、販売チャネルの変化
農林水産省の統計資料によると、明太子の原料となるスケトウダラの卵の原料にあたる17年の「たらの卵(生、冷蔵、冷凍)」の輸入額は4.2万t(金額にして318億円)だった。これは前年(16年)の3.5万t(264億円)より、0.7万t(54億円)増加した。贈答用の明太子の需要は減っているが、輸入量は年によってバラツキはあるものの、大きな落ち込みはない。
国産のスケトウダラの卵の生産量は公表されていないが、スケトウダラの卵を含んだタラの卵の漁獲量は、17年1,290t(前年比52t減)。我が国の明太子のほとんどはロシア産や米国産の輸入物に頼っていることがわかるだろう。
スケトウダラの卵の輸入量が増えている背景には、菓子や加工食品の原料として多く使用されていることが考えられる。また、eコマースによる販売チャネルの変化もある。eコマース大手のAmazonや楽天市場では、贈答用の明太子や明太子原料の加工食品などが多数紹介されている。その数は、楽天市場で1万5,840件(7月6日現在)もあり、わざわざスーパーや百貨店に行かなくても複数の商品を購入できる。実店舗では考えられないほど多くの商品が並ぶなか、商品のオリジナリティも販売力を高める要素となる。ひと味変える明太子の原料としての出番は、まだまだ伸びしろがあるはずだ。ギフトの定番から原料へ―。“贈答用終了”の流れのなか、台頭してきた明太子の加工食品。衰退から再生へ。この流れは今後も加速していくことが予想される。
(了)
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