ウォルマートの戦略変更とは何か?(後)
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日経新聞は世界小売最大手のウォルマートが日本の完全子会社である西友を売却すると報じた。
西友は1956年、旧西武グループが設立した西武ストアを母体にした小売業で、店舗数は全国に335店舗を展開している。経営不振から2002年にウォルマートと業務提携し、その後2008年には完全子会社となっている。その背景には何があるのか。ECへの舵切り
最近のウォルマートは出店を控えてEC部分への投資を厚くしている。この一年で、「シューバイコム」や「ジェットコム」「ムースジョー」などのEC企業を買収し、ウォルマートコムの取扱品目も3,500万品目に増やしている。これはウォルマートのEC戦略を極めて明確に表している。リアル店舗に加えて新たな分野への挑戦だ。
これはアマゾンを強く意識した戦略展開でもある。この7年、アマゾンは北米だけでもその売上を5兆円以上積み増している。これはウォルマートの年間売上の10%だ。この数値はウォルマートを震撼させるには十分といっていい。いわゆる無視できない競合の出現なのである。西友の売却報道は我が国の小売業の2つの懸案を想起させる。1つは旧型店舗の不振だ。西友そのものは利益が出ているというものの、ほとんどの店舗が老朽化の印象を否めない。当然、改装が必要だが中身の変更のない売り場のリニューアルはほとんどの場合、売上の改善には結びつかない。イオンがニチイやダイエーの旧店をリニューアルせずにスクラップするのはこの辺りの事情による。ウォルマートもそれを十分に検討したはずだ。
異国の消費文化を正確につかむのは容易ではない
小売業がドメインを離れて成功するのは容易ではない。国内小売業の勝ち組といわれるニトリや良品計画がアメリカで苦戦しているのがその好例である。イギリスのテスコもアメリカ進出に失敗しているし、近年アメリカ市場に挑戦を始めたドイツの人気スーパー「リドル」も苦戦が伝えられている。ドイツ企業で成功しているアルディやトレーダージョーズも当初の厳しい状況を脱するのに長い時間を必要とした。それは我が国にも当てはまる。
以前、フランスのカルフールは鳴り物入りで日本に進出したが、瞬く間に撤退した。理由は簡単である。日本人がカルフールに期待したのはシャンゼリゼイメージのおしゃれで素敵なフランスである。しかし、それは幻想に過ぎなかった。やってきたのはノンフリル(無装飾)のハイパーマートだった。日本のお客は「期待外れ」とがっかりした。
だからと言ってギャラリ・ラファイエット(フランスの高級百貨店)的な高級、高質店をもってきてもチェーン展開はできない。それぞれの国には商業の発展レベルは別にして、それぞれの消費事情があるからだ。長い間醸成された消費スタイルにうまくフィットするのは新参の小売業にとって容易でない。
欧米の大型小売業は国外進出の際に取る手段はウォルマートが西友を子会社にしたように現地企業を買収するかテスコやリドルがしたように短期間に大量出店するかのどちらかだ。しかし、こうすればうまくいくというバイブルはない。アメリカ大手DSのターゲットは2011年、カナダ小売大手のハドソンズ・ベイ・カンパニーから小売子会社の「ゼラーズ」を2,000億円で買収し2013年からわずか1年で100店を超える店をオープンしたものの、2015年には黒字化のめどが立たずに撤退した。総投資は優に50億ドル。撤退にも5億ドル程度の経費がかかったとされている。この辺りはちびちびと出店して様子を見ながら運営しようとする日本の小売業と投資と戦略の規模が違う。
ウォルマートも同じだ。大金を投じた買収でも、そこの問題が発生すればササッと撤退をする。特筆すべきはそれを実行できることだ。業績不振が続いても何ともならない明日を何とかなると信じてずるずるとさらなる不振を招くウエットな日本企業に比べるとウォルマートはドライだ。しかし、それこそ厳しい環境を勝ち抜くベストな方法でもある。
もし、今回の売り先未定の売却が報道通りだとする時、それを見ていささかなりも驚愕するようなら、その人は今の小売業が突きつけられている構造変化に気がついていないのかもしれない。(了)
<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年、宮崎県生まれ。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。関連記事
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