【トップインタビュー】ポピュリズムと放漫財政の危うさを直視し政治家は真の国益の代弁者であれ
衆議院議員 緒方林太郎 氏
2026年2月8日に投開票が行われた衆院選で、自民・維新両党は衆議院で4分の3を超える圧倒的な議席を獲得した。2月18日に開会する通常国会において、国論を二分する法案の論議も行われるとみられる。「耳触りが良いことばかりではこの国は道を誤る」と主張するのが、元外交官で、福岡9区選出の緒方林太郎議員。福岡県11小選挙区唯一の野党議員である同氏に対する期待は大きい。
中道改革連合が支持を得なかった理由
──緒方議員が福岡県で唯一小選挙区で当選した野党議員となりましたが、今後の政局はどのように動いていくとみていますか。
緒方林太郎氏(以下、緒方) まさか自民党がここまで勝つとは思っていませんでした。福岡9区で見ているものと全国の報道を通じて見えてくるものの間にギャップがありました。開票が始まった後の報道を見ても背筋がゾッとするような状況でした。中道改革連合は結果として国民の皆様方の理解を得るに至りませんでした。しかしなぜ国民の支持を得られなかったのか。私は「国民の見方は正しい」といつも思っているのです。民意を軽んじてはいけないと考えています。
私は2017年の希望の党騒動の時にも経験しましたが、選挙直前に選挙への思惑をもってくっついたりすることは、国民の不信感をもたれるのです。立憲民主党や公明党それぞれの政党に対しては、主張や政策に共感することはたくさんあります。でも主義主張が異なる党同士の野合、選挙互助会とみられてしまったのです。私は信頼している数人の立憲の方にも無所属で出ることを勧めました。しかし大きな流れが中道改革連合の方に向かうなかで悩みつつも中道改革連合に合流していかれました。私も17年の衆院選で大きな流れに抗することなく合流して、最終的に落選をして失意のどん底に落ちました。
──中道改革連合の壊滅により、稲富修二さんや城井崇さん、福岡の旧立憲の方が全部議席を失いました。
緒方 お二方ともよく存じていますので、いろいろな思いがこみ上げます。本当に有為な能力の高いお二方であったので、国政で失うことは損失だという思いもあります。しかし、選挙結果をすごく冷静な頭で見ていくと、やはり大きいのは無党派層の支持が自民党と比べて少なかったことだと思います。昔、諸先輩方から言われたのが、無党派でダブルスコアでもダメなんだと。ダブルスコアを少し超えるぐらいのところまで来ないと、小選挙区では勝てないんだよということを言われたことがあります。野党の支持層だけでは絶対に勝てません。今回無党派層のなかで、中道が評価の対象にならなかったように思います。
──右にも左もよらない中道の理念自体は、SNSで極論が広がるなかで間違ってはいなかったように思います。ただ、自民党は女性首相が先頭に立って選挙戦を戦うのに対して、中道のフロントは男性ばかりでした。
緒方 私は今無所属ですので、与党に厳しいことも言いますし、野党にも厳しいことを言います。中道的な価値観というのは今だからこそ求められており、世界的に見ても極端なことで国家をマネジメントしていくことの危うさがあります。中庸は中国の故事にも出てきますけども、決して足して二で割るということを意味しているものではありません。あえていうなら穏健保守と思います。有権者から見て理念でなく、中道という陳列棚に並んだ目玉商品である候補者の評価が選挙結果だったと思います。中道改革連合は全国の小選挙区で7議席しか取れていません。比例も42議席です。先日上京しましたが、多くの尊敬してやまない方々が議員会館や宿舎から退去される姿を見て、最悪の結果だったとこみ上げてくるものがあります。
放漫財政は市場の信頼を失う
──国論を二分する法案も進めていくと高市首相は早速言明しましたが、高市政権の今後の動きは。
緒方 今回訴えていったことを実現していくと思います。経済安全保障をはじめとして、「責任ある積極財政」が何を意味するか、私はいまだによくわかりませんが、最後の本丸はおそらく憲法改正だと思います。これらを進めていくにあたり、高市さんはこれから内部のマネジメントに苦労すると思います。有体に申し上げるとスキャンダル対応に苦労するのではないでしょうか。みんな1人、それぞれが一国一城の主なので、いくら総理が一強って言ったところで、官邸が党側を抑え込めるのかどうかわかりません。
政策面でみると、金融・財政政策が焦点になります。どんどん円の価値が下がっています。ちなみに私は円が下がったときの基準として見ているのはドルではなくて、スイスフランが今一番安定している通貨です。円だけでなくドルの価値も下がっています。昨年5月、参議院選挙の2カ月前あたりから、減税や積極財政を掲げる政党の躍進が始まりました。対スイスフランで円は13%以上下落しています。その分外国から物を買うので、我々はさらに貧乏になっているということになります。皆さんが日々の生活で実感されていると思います。たとえば、数年前はコンビニのおにぎりで105円か110円でしたが今は200円を超えています。
今回の選挙でほとんどの政党がばらまく話をしていました。物価が上がることの最大の要因は輸入物価にあります。何より円安だからです。物価高対策で大事なことは円が130円台まで戻ることです。そのためには財政規律を守るというメッセージをマーケットに出すことで緩やかな円高を実現することによって物価を下げることです。しかしなぜ物価高対策で物価そのものを下げる政策を訴える政党がないのか疑問を抱きました。積極財政を行うとまた円が下がりまた物価高になり、悪循環になるのではないでしょうか。
──自民党で岸田・石破両元首相や森山元幹事長は財政規律を重視する議員だと思います。
緒方 その通りですが、自民党内の動きとして顕在化していないように思います。自民党は伝統的に激しく政争を行いますが、勝った側に従うという文化があります。自民党のなかで、決起してほしいと思っていますが、政権から出てくるものに全部賛成したならばそれはただの評論家です。
──衆院選で各党が掲げた消費減税については。
緒方 財源を出せるのであればやればいいと思います。しかし増税すべきとは思いませんが、現在の日本の財政はよいわけではありません。このことについて2つの視点があり経済面から見た話と、政治的に見た話です。まず経済面から見ると財源を持ったうえでやれるのであればよいと思います。ガソリン暫定税率廃止も決まりましたが財源を出せるのかどうか。地方自治体は服部福岡県知事も含めて、減収分を手当てしてもらいたいと発言しています。地方からすると、手当てしてもらえなかったよねと不満が高まるのではないでしょうか。財務省に勤務する私の大学の同級生が、「1,000億の財源探すのにどれだけ苦労していると思っているのか」と語っていました。高市首相は飲食料品の消費税ゼロは2年間で10兆円必要と述べています。財源を見つけたうえでというのですが、社会保障費を大幅削減することなど行えるでしょうか。
消費税とともに今後の焦点となるのが防衛費の財源です。日本の防衛費は現在、国内総生産(GDP)比で2%を目安としています。25年度の当初予算と補正予算を合わせて11兆円規模を確保し、27年度までの目標を前倒しで達成しています。財源については、昨年末に閣議決定した26年度税制改正大綱で所得税増税の開始を盛り込んだものの、GDP比2%を実現するための財源確保のメドがついたにすぎません。防衛費は同盟国のアメリカとの関係も無視できません。アメリカは今年1月、新たな「国家防衛戦略(NDS)」を発表し、同盟国や友好国に防衛費をGDP比5%まで引き上げることを求めています。現状でも米国からの武器購入費の支払いに苦労しています。
国民に耳触りの良い話ばかりでなく、時に国民に厳しいこともいわなければ、この国はポピュリズムにより、国の在り方を誤るとの危機感をもっています。通常国会でも、高市総理には明確に伝えていこうと思います。
日中間の対話なくして
毅然とした外交にあらず
──昨年国会で質問された事柄が政策に反映されたり、ニュースにもなりました。
緒方 衆議院予算委員会で高市首相に対し、売春防止法で売春の相手方(買う側)を罰することについて検討することについて平口法相への指示を求めたところ、即座に前向きな答弁を行ったことですね。
実は私の質問の前に伏線がありました。立憲民主党の塩村文夏議員の「国際基準に沿った買春規制導入を急ぐべきではないか」との質問に対して「政府として社会情勢を踏まえた、売買春に係る規制の在り方について必要な検討をする」と答弁しています。また、女性客に多額の売掛金を負わせて売春させる「悪質ホストクラブ問題」について内閣委員会の審議で、買う側を規制できないのか、という論点も議論してきました。売春防止法は売買春を違法としていますが、双方に罰則規定はありません。一方で売春しようとする側の勧誘や客待ち行為は罰せられます。
これについては、保護法益(法によって守られるべき利益)などについて議論があることも事実で、世界各国の事例を見ると、オランダやニュージーランド、フランス、ドイツなどで売春が合法化されている国がある一方、北欧諸国のように買う側を罰する国もあります。
問題は性産業を厳格化すると地下に潜る懸念があることでした。江戸時代の日本においても、規制強化と緩和との振れ幅がありました。しかし私の背中を押してくれたのは、歌舞伎町で語ってくれた女性の声でした。引き続き、この問題に真剣に取り組んでまいりたいと思います。
──最後に外交について。現在日中関係は厳しい状況にあります。
緒方 現在の中国は経済規模でも軍事面でも超大国になっています。私は別に中国の言っていることをすべて正しいとは思っていません。しかし同時にもう1つ必要なのが、対話を行うことだと思います。
19世紀の英国首相・パーマストンが語った言葉で「我々には永遠の同盟国も永遠の敵もいない。あるのは永遠の国益だけだ」という有名な言葉があります。パーマストンはリアリストでした。私も外交を考えるときに好き嫌いで判断しないようにしています。相手にも向こうのレッドラインがどこかということも聞く必要もあります。
私は外務省に勤務していたときに、日中国交正常化に際して当時の大平正芳外務大臣がどのような苦労をしながら台湾問題について収まりをつけたのか、極秘文書も含めて読む機会がありました。かつては議員外交が積極的に行われていました。ところが、現在の自民党の議員は、「媚中派」と呼ばれることを恐れて中国とのコミュニケーションの糸をつなぐことができなくなっています。
中国の外務省、あるいは政府の関係者に対して、平和裏に中台が統一されるのであれば、日本としていうことはないと申し上げていますが、武力侵攻はだめだとも主張しています。もちろん中国側からは反論が返ってきます。しかし、保守派と呼ばれる政治家がこのやりとりすら行わずに、中国に対して毅然とした姿勢といえるのか疑問です。相手と直接対話を行う勇気をもとうと呼びかけたいと思います。
【近藤将勝】
<PROFILE>
緒方林太郎(おがた・りんたろう)
1973年、北九州市八幡西区生まれ。福岡県立東筑高校卒業。現役で東京大学文科1類に進学し、法学部3年時に当時最年少で外交官試験に合格、94年に中退して外務省入省。在セネガル日本大使館勤務や条約課課長補佐などを経て2005年に退官。09年の総選挙で福岡9区から立候補し初当選(民主党)、14年の総選挙で2期目当選(比例九州で復活)。この間、民主党・民進党の県連代表も務める。17年の総選挙では希望の党から立候補したが三原朝彦氏に惜敗。21年の総選挙では無所属で出馬し三原氏を破り当選、26年の衆院選では24年衆院選に続いて約10万票を獲得し再選。父親は経済的理由で大学進学を断念し、新日鉄八幡製鐵所に勤めていた。柔道3段。妻(元外務省)と娘の3人家族。








