最低賃金の引き上げによる労働市場のショック(後)
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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)
韓国は2000年代に入って、年平均7.3%ずつ最低賃金を上げている。2017年は前年対比8.1%引き上げ、最低賃金を6,030ウォンに、2018年は昨年より16.4%引き上げて、7,530ウォン(月給では157万3,770ウォン)となっている。2019年は10.9%引き上げて、8,350ウォンにすると発表されている。
最低賃金を上げていくことについては賛成していても、そのスピードの速さと率の高さについては懸念が示されている。韓国では、いったん会社をやめると、再就職が難しく、退職後は、自営業を始める人が多い。そのような背景もあり、韓国の労働者のなかで、最低賃金引き上げの対象者は18.2%で、OECD加盟国のなかではトップである。ちなみに、米国は3.9%、イギリスは5.3%、フランスは10.8%だ。韓国政府の最低賃金引き上げの目的は、労働者の生活の質を少しでも改善し、その結果、消費が伸び、また経済が活性化されることだ。
それでは、最低賃金が引き上げられた結果、韓国はどうなっただろうか。韓国統計庁によると、月給150万ウォン以下の人の昨年の比率は54.2%であったのに対して、今年は48.8%に減少しているとのこと。
しかし、良い面もある反面、当初から予想されていた問題も露呈している。最低賃金が上がることによって、アルバイトを採用せず、その代わりに家族だけで経営していこうとする店が増えているようなのだ。また人件費の増加を補うために、商品価格が上がってきている。とくに外食産業のように人件費がコストの20%~30%を占めている業種では、約24.2%のお店が飲食料金の値段を上げている。
無人システムを導入する店も増えている。ファストフードのロッテリアは、無人注文機の導入を推進している。設置費用は1台1,000万ウォンほどで、長期的に見れば従業員を採用するよりコストが安い。このように生活の質の向上を目指した韓国政府の政策は、新たな問題である雇用機会の減少と物価上昇をもたらしているのが現状である。今年1月に実施した、2000年に入って以降、過去最大の上げ幅となった17%の最低賃金引き上げは、低所得層の収入に逆効果をもたらし、投資や求人を抑制しているとされている。
小規模企業の業界団体である小商工人連合会は、改革履行を拒まざるを得ないと表明。「零細企業は岐路に立たされており、廃業するか人員削減か、厳しい選択を迫られている」と政府の政策に不満を表した。
物価上昇も韓国政府の新たな課題となった。理美容店などのサービス業、飲食店など、自動化が難しい業種では、賃金上昇分を価格に転嫁し、その結果、物価の上昇を引き起こしている。韓国政府では、補助金などで賃金の上昇を穴埋めすると言っているが、政府支出の増加につながる。専門家は韓国の場合、最低賃金を引き上げるよりも、生産性の向上に取り組むことが重要だとしている。なぜならば韓国の労働生産性はOECD加盟国平均の73.7%に過ぎないからだ。賃金だけを引き上げるよりは生産性を上げたほうが望ましいという指摘である。
(了)
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