2024年12月22日( 日 )

最低賃金の引き上げによる労働市場のショック(前)

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日韓ビジネスコンサルタント 劉明鎬(在日経歴20年)

 現在の韓国経済は1990年代の日本の長期不況初期と状況が酷似していると言われ赤信号が灯っている状況だ。だが韓国は日本に比べ、経済面での基礎体力が極めて劣っており、はたしてこの試練に耐えられるか疑問だ。

 消費の一項目である韓国の小売販売は、18年4月、前月対比1%減少し、2カ月連続の減少になっているし、設備投資も前月対比3.2%減少し、3カ月連続の下落となった。より心配なのは、韓国経済が、さらに消費が減少する要因を抱えていることだ。それは何かというと、昨年突入した高齢化社会だ。

 韓国の人口構成における高齢者の割合は20年前と比較して倍になった。日本の高齢者の資産のなかで現金、預金が占める比率は、41.5%であるのに対し、韓国の比率は、18.8%に過ぎない。消費力が旺盛な若者が数多く失業している状況で、高齢者が増加することは必然的に消費の萎縮につながらざるを得ない。

 このように内需にあまり期待できない状況下、韓国経済は輸出だけが支えになっている。ところが、昨年前年対比15%の増加率を示していた輸出も、今年になって増加率に陰りが出ている。今年4月の輸出増加率は前年同月対比1.5%減で、5月には4.8%も減少している。それに、米中貿易戦争が勃発し、いつその影響が韓国の輸出に暗い影を落とすかわからない状況である。米国の貿易赤字額を減らすべく、米国が中国に圧力をかけ、中国の貿易額が10%減少すれば、韓国の成長率は0.9%落ちるという試算がある。韓国経済はこのように課題が山積している。

 このような状況で、韓国政府は文在寅(ムン・ジェイン)大統領が選挙公約である最低賃金の引き上げと週52時間勤務制を導入したことで、その実施をめぐって、賛否両論が巻き起こっている。庶民の生活に直結する問題だけに、自営業者を中心に反発が巻き起こっているのだ。

 文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、働き方改革の一環として労働時間を減らす一方で、賃金は増やしたいと考えている。そのため、韓国政府は最低賃金を引き上げ、また週の労働時間の上限を68時間から52時間に引き下げた。その背景にあるのは、韓国の労働時間が経済協力開発機構(OECD)加盟国中、トップクラスに長いということが挙げられる。つまり労働時間を減らす必要があったのだ。

 韓国政府は所得の増加を中心に据えて、経済発展を図っている。すなわち国民の所得が増えれば、自然に消費が伸び、消費が伸びたら、仕事も投資も増え、その結果として経済が成長するということを目指しているのだが、現状はなかなかうまくいっていない。

 最低賃金とは、国が労働対価の下限を法律的に決めておく制度だ。これより低い賃金を支払うと、法律違反になってしまう。同制度を最初に導入したのはニュージーランドである。同国は1894年に女性と子どもなど社会的な弱者を保護する目的でこの法律を導入したようだ。

 米国では、1912年にマサチューセツ州で最初に導入された。最近、先進国を中心に最低賃金の引き上げが相次いでいる。イギリスは6.7ポンドだった最低賃金を7.2ポンドに引き上げたし、米国もニューヨーク州とカリフォリニア州は最低賃金を15ドルに引き上げた。日本も毎年3%ずつ最低賃金を引き上げている。

(つづく)

(後)

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