今さら出てきた「サマータイム」の亡霊~終わらない五輪狂騒曲
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2020年の東京オリンピックに向け、サマータイムを導入しようという動きがある。政府与党内で検討を進め、秋の臨時国会で議員立法のかたちで提出を目指すという。サマータイムは日本では1948年に導入されたが、定着せず4年後に廃止となった。
今回導入を検討されているサマータイムは、6~8月など暑い時期に限り、時刻を2時間繰り上げようというもの。オリンピック期間中に、今年のような記録的な暑さに見舞われたら……ということだが、仮に暑さ対策に効果があったとしても、デメリットはそれをはるかに上回ることが想定される。
まずはIT関係業務の混乱だ。そもそも平成の次の元号が直前まで発表されないことで混乱が予想されているうえに、「一時的な時刻の変更」というシステムの根幹に関わる大規模な作業が発生する。48年当時とは異なり、現代は公共交通機関から金融、行政、医療に至るまで日常生活に関係するほぼすべての分野にITが導入されている。「会社の時計や腕時計の時間を合わせましょう」ではとても済まず、サマータイムによる時刻変更で予期せぬシステムの不具合が出た場合、人命を含めた大きな損害が出る可能性がある。実際に、「うるう秒」で1年が1秒長くなった2012年7月には、複数のウェブサービスに不具合が発生した。
サマータイムを導入し、長年運用しているヨーロッパ諸国でも、IT関係に過大な負担をかけるという理由で廃止を訴える声もあるほどだ。しかも期間限定でオリンピック期間後は元に戻すということであれば、時刻に関するシステムは、またもすべて組みなおしということになる。次に、結果的に労働時間延長につながるのは間違いないところ。推進側は「2時間繰り上げることで涼しい時間に通勤・通学することができる」というが、では終業時間を2時間早めることが実際にできるのだろうか。「ブラック企業」「サービス残業」というキーワードがいまだに飛び交う日本の労働環境のなかで、「2時間早く出社して、2時間早く退社する」ことを実現できるとは思えない。
菅義偉官房長官は会見で「サマータイム導入を目指すとの方針を決定した事実はない」として鎮静化を図ったが、百害あって一利なしのサマータイム導入はまさに暴挙。与党筋も目を覚ましてほしい。そもそもの問題として、なぜ東京という一都市が行うイベントのために、北海道から沖縄まで東西南北に幅広い、この日本列島すべての時刻をずらすという愚挙を行う必要があるのだろうか。サマータイムは東京単独、もしくは関東圏で、というのが筋だろう。「オリンピックのため」という大義名分のために、労働力を東京に吸い上げられ続けている地方からすれば、憤懣やるかたなしというところだ。
かつて1964年の東京オリンピックには、戦後復興と高度経済成長を成し遂げた日本という国のプレゼンテーションを行うという国家事業の側面があったかもしれない。しかしその後、札幌、長野と2回のオリンピック開催を経て、いまや成熟した国家となった日本にとってのオリンピックは、「国威発揚」ではないのは自明だ。サマータイム以外にオリンピックの暑さ対策として挙がっているのが「打ち水をする」「マラソンコース沿道のビルはドアを開けて冷気を流す」という議論以前の思い付きであることは、かつて発揚せしめた国威が地に落ちていることのプレゼンテーションになってしまっていることに、JOC(日本オリンピック委員会)やそこに群がる国会議員、東京都知事らはいつ気が付くのだろうか。
【深水 央】
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