2024年12月23日( 月 )

『脊振の自然に魅せられて』「コバギボウシ」小葉擬宝珠 ユリ科

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 フィルムカメラの時代、コバギボウシを求め、福岡市早良区の坊主ケ滝上部の岩場に何度も足を運びました。この場所には、落差20mの滑り台状の大滝や脊振山系で落差・スケールとも大きい二段滝があります。コバギボウシは、その中間地点の岩場に咲いていました。
 背丈20〜30cm、紫色のユリ状の花が2、3株咲いている程度でしたが、大自然に囲まれて密かに咲いている姿が恋しくて何度も足を運んだものです。イメージ通りに撮れないまま、そのうち、この場所でコバギボウシを見かけることはなくなりました。

 それから10数年、フィルムカメラからデジタルカメラの時代になり、技術も画期的に進歩しました。そういえば、まだコバギボウシをデジタルカメラで撮影していないことに気づきました。夏は沢三昧で花の撮影をしていなかったからです。
 「コバギボウシに会いたい」という思いが無性にわいてきました。「もうそろそろ咲いている頃だろう」と思い、花を求め愛車のスバルXVで脊振山駐車場へと向かいました。
 今年7月の豪雨により脊振山系の林道の多くが土砂崩れの被害に遭い、国道263号の三瀬峠越えの旧道も通行止めになっています。有料のトンネル越えで、どうにか脊振林道に入ったものの、途中で土砂崩れ。やむなくUターンをして佐賀市三瀬から県道46号線を抜けて脊振山神社の前を通り、どうにか脊振山頂駐車場に辿り着きました。

▲やっと出会えた『コバギボウシ』

 所要時間は1時間30分、予定より30分も遅れました。山頂の駐車場は時折ガスに囲まれ、寒さを感じる程でした。下界は35度をはるかに超えており、ここは、まさに“別天地”でした。
 ここから縦走路を水平移動してコバギボウシを求めての山旅を開始しました。少し寄り道をして矢筈峠を下り、この時期に咲くヤマジオウの撮影を終え、目的の場所へと足を進めました。
 コバギボウシの群生地は今年の春に確認していました。「咲いているかな」と、心踊らせ群生地に向かいました。群生地より少し手前にコバギボウシが笹薮のなかに2株咲いていました。50cmほどの、すっと伸びた茎から紫の花を付けたコバギボウシは凛として輝いていました。10数年ぶりの対面です。感動の瞬間でした。
 三脚を立ててアングルを変え、シャッターを切る、夏の太陽が撮影の邪魔をします。陽が当たると影ができたり花が透けたりします、時には日差しは邪魔な存在になるのです。
 太陽が雲に入るのを待ち、撮影は終了しました。年を取るとマクロ撮影(接写)は目と頭が疲れます。精神的に若くても老いた体にはこたえるのです。

 山頂の駐車場に1台の軽自動車が止まっていました。この松本ナンバーの車は一見タコ焼き屋を思わせる車でした。不思議に思い、声をかけると落ち着いた風貌の初老の男性が「絵を描きながら、のんびり九州旅行をしていると」と答えました。よくよく話を聞いてみるとプロの画家だということでした。
 木製の手づくりキャンピングカーはお座敷風で快適そうでした。名刺を渡すとポケット作品集をプレゼントしてくれました。まさしくプロの画風でした。 

 自宅へ向かう途中、林道沿いの水場で汗ばんだ顔を洗うと、疲れが一気に吹き飛びました。
 大きな杉に囲まれた静寂につつまれた脊振神社を参詣し、背振の自然との出会いに感謝をした夏の1日でした。

2018年8月6日
脊振の自然を愛する会 代表 池田 友行

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