2024年11月17日( 日 )

安売り戦略の栄枯盛衰 常識外を行くドンキ(4)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

ドラッグストアというDS

 メーカー、問屋が取引条件で重視するのは将来の売上拡大だ。当たり前のことだが、営業マンは営業数値を伸ばさなければならない。しかし、既存店舗の数値が思うように伸びない現状では実績数値を伸ばすのは容易なことではない。そこで彼らが目を付けるのがドラッグストア(DgS)だ。DgSは生鮮をもたないことで、高コストの店舗設備と製造技術の蓄積が要らない。さらに店舗あたりの売上や店舗敷地もSMの半分もあれば十分である。だから多数の店舗を短期間で展開することが容易である。狭い地域に多数の店舗を展開すれば、地域シェアは高まる。地域シェアの高さはメーカーにとって出荷価格の大きな目安でもある。営業マンから見ればいわゆる「先行きに期待できる」ということになる。DgSはここを武器に仕入れを有利に運ぶことができる。DgSの経費率は通常SMより10%近く低いからシェアの拡大は比較的容易である。仕入れを安くして値入も低くすれば、店頭での価格はさらに安くなる。さらに生鮮食品もアウトソーシングで品ぞろえすれば客数が増え、経費率がさらに下がる。DgSという業態市場が飽和するまでこの繰り返しが可能だ。

 そんなDgSにも2つの問題が立ちはだかる。1つは我が国のメーカーや問屋の高くない経常利益率だ。メーカーはともかく大手問屋に至ってはその数値は2%にも満たない。小売に安く提供しようにもその原資がないのである。もう1つが坪あたり売上の低下だ。店が増えるということは売り場面積が増えることでもある。我が国の小売店舗数はアメリカ同様、飽和がすぐそこに迫っている。

現場任せがいい加減といかがわしさを生む 

 今、注目の小売業にドン・キホーテがある。ドン・キホーテはいろいろな意味で話題の企業だ。既存店舗の伸びも展開地域、店舗数も増えている。この企業の特徴は『花の山路線』だ。普通の小売業が当たり前に行っている絞り込み、整理整頓、見通しの良さという手法のまったく逆をいく。売り場はそれこそ何でもありだ。来店するお客にとって、宝探し的なわくわく感がある。洗練されたSMやGMSから見れば常識外の売り場だ。

 この売り場の特徴は商品管理や陳列を現場任せにする非管理手法にある。従業員は自分の工夫で売り方や売り場づくりができる。非管理といっても、情報機器が十分に発達した現在だ。売り場を管理するそれぞれが社内のさまざまな事例を共有できる。

 非常通路の表示も満足に確認できない店舗状況の善し悪しは別として、売り場はいかがわしさとエンターテイメントに満ちている。過剰に見える在庫も売上が順調な限り問題にはならない。

 既存店の伸びも経常利益率も今のところ順調に見える。きめの粗い生鮮売り場もミレニアル世代の生鮮離れを考えると大きなデメリットにはならない。しかし、評価の高い経常利益もその少なくない部分を賃貸という不動産収入が占めている。既存大手よりはるかに低い人件費率も今後、企業の成熟とともに膨らんでくるはずだ。

 実はGMSもかつては同じ構造だった。それぞれが自由に商品を仕入れ、陳列し販売した。しかしその後、分業という名の効率主義がはびこり、売り場から感動が消えた。今後、ドン・キホーテがどんな姿になるのか、いささか興味がもてる。

(了)
【神戸 彲】

<プロフィール>
神戸 彲(かんべ・みずち)
1947年、宮崎県生まれ。74年寿屋入社、えじまや社長、ハロー専務などを経て、2003年ハローデイに入社。取締役、常務を経て、09年に同社を退社。10年1月に(株)ハイマートの顧問に就任し、同5月に代表取締役社長に就任。流通コンサルタント業「スーパーマーケットプランニング未来」の代表を経て、現在は流通アナリスト。

(3)

関連キーワード

関連記事