2024年11月13日( 水 )

なぜ、文科省は自発的「植民地化」に邁進するのか!(2)

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国際教育総合文化研究所 所長 寺島 隆吉 氏
朝日大学経営学部 教授 寺島美紀子 氏

第2外国語は必須ではなく選択科目の1つに

 ――「大学の英語教育」の問題に移ります。まず大学の英語教育の現状から教えていただけますか。

 寺島 日本の大学では、従来は英語のほかに第2外国語を履修することが必須でした。しかし、現在、第2外国語は必須ではなく、選択科目の1つになり、外国語は英語一辺倒へと大きく傾斜しています。2010年まで奉職した岐阜大学の例で申し上げれば、ドイツ語、フランス語、中国語などの講座は周辺部に押しやられました。ほかの私大でも見られることですが、英語以外の先生が定年で退職した後は、その外国語を非常勤講師にまかせるか開講しないことが多くなっています。

 寺島美紀子氏(以下、美紀子) とくに私立大学では英語以外の講座は開講していないところが圧倒的に増えています。朝日大学の場合は中国語だけが残っています。これは、中国人の留学生が多い点と、北京外国語大学と交換教授制度があるからです。しかし、政府の中国敵視政策とからんで、中国語を選択する日本人学生はとても少ないのが現状です。

教員の研究費を削ってTOEICの受験料を捻出

▲『英語教育が亡びるとき――
 「英語で授業」のイデオロギー』
 明石書店/2009年

 寺島 岐阜大学では、私が奉職していた当時から、「TOEICを学生全員に受験させなさい」あるいは、「授業の一環でTOEICの練習問題をやりなさい」という大学側からの圧力がありました。TOEIC受験料はすべて大学が支払います。しかし、国から予算の充当があるわけではなく、教員の研究費を削って、学生のTOEIC受験料を捻出していました。英語教育に関していえば、大学は限りなく専門学校化して、もはや教育とは言い難い状況といえます。

 美紀子 朝日大学の文系学部では約10年前までは毎年、全員にTOEICを受けさせていました。しかし、学生の意見、教員の意見などを総合的に判断した結果、現在は講義充実をより優先的に考え、TOEIC受験はなくなりました。このように、学生の気持ちを優先して理解ある結論に落ち着く大学は少ないかもしれません。
 しかし昨年から、代わりに全学部で英検IBAを受験させることになりました。文科省の助成金の評価リストは、英語テストを全員が受験すると評点が高くなる仕組みになっているからです。こうして、助成金という経済論理に翻弄され、学生や教員の気持ちを考えている余裕を大学側がもてなくなってきています。

(つづく)
【聞き手・文・構成:金木 亮憲】

<プロフィール>
寺島 隆吉 (てらしま・たかよし)

国際教育総合文化研究所所長。元岐阜大学教育学部教授。1944年生まれ。東京大学教養学部教養学科を卒業。石川県公立高校の英語教諭を経て岐阜大学教養部および教育学部に奉職。岐阜大学在職中にコロンビア大学、カリフォルニア大学バークリー校などの客員研究員。すべての英語学習者をアクティブにする驚異の「寺島メソッド」考案者。英語学、英語教授法などに関する専門書は数十冊におよぶ。また美紀子氏との共訳『アメリカンドリームの終わり―富と権力を集中させる10の原理』『衝突を超えて―9.11後の世界秩序』(日本図書館協会選定図書2003年度)をはじめとして多数の翻訳書がある。

<プロフィール>
寺島 美紀子 (てらしま・みきこ)

朝日大学経営学部教授。津田塾大学学芸学部国際関係論学科卒業。東京大学客員研究員、イーロンカレッジ客員研究員(アメリカ、ノースカロライナ州)を歴任。著書として『ロックで読むアメリカ‐翻訳ロック歌詞はこのままでよいか?』(近代文芸社)『Story Of  Songの授業』、『英語学力への挑戦‐走り出したら止まらない生徒たち』、『英語授業への挑戦‐見えない学力・見える学力・人間の発達』(以上、三友社出版)『英語「直読理解」への挑戦』(あすなろ社)、ほかにノーム・チョムスキーに関する共訳書など、隆吉氏との共著が多数ある。

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