「新聞離れ」と「朝日離れ」二重の苦悩に明るい見通しはなく(後)
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(株)朝日新聞社
中期経営計画の肝は不動産
朝日新聞社の渡辺雅隆社長は、2016年の年頭に2020年度までの5カ年の方針となる「中期経営計画」を公表した。東京オリンピック・パラリンピックが開かれる20年度までの具体的な目標を決め、経営基盤を強化し、再生から再び成長軌道に乗せるとしている。また19年には朝日新聞創刊140周年を迎えることから、ベンチャーの気概を取り戻し、時代とともに進化するという。「成長事業の創出」と「経営基盤の強化」を2つの柱とし、18年度までの3年間は経営の足場を固める経営基盤強化の期間と位置付けている。事業の取捨選択を進め、販売シェアを最大手と競り合う水準まで引き上げ、新聞広告収入は業界トップに返り咲くことを目指す、としている。続く20年度までの2年間を新事業成長期にする方針だ。具体的な経営数値の目標としては、16年3月期に2,700億円(単独)にまで落ち込む売上高を、5年後に3,000億円にする。不動産事業を中心とする新聞事業以外の売上高比率を16年段階での15%から25%に拡大し、新聞事業だけに頼り切った経営から脱却し、複数の柱をもつ企業へと収益構造を変えていくという。
現在は、5カ年の計画のちょうど折り返しの時期にきている。2,700億円に落ち込んだ売上高を3,000億円に引き上げていく途上にあるはずだが、17年3月期、18年3月期と下落基調で2,550億円にまで減少した。最大手、つまり読売と競り合う水準にまで引き上げるとした販売シェアは、あまり変化がない。両社とも部数は減少しており、その差に大きな変動はないからだ。一方でラグジュアリーホテル「コンラッド大阪」が開業した「中之島フェスティバルタワー・ウエスト」や、(株)サンケイビルと共同で旧ラクチョウビルを建て替えた「X-PRESS有楽町」、日本初進出の「ハイアット セントリック 銀座 東京」を開業した東京銀座朝日ビルディングの建替えなど、不動産事業は着々と進んでいる印象だ。
「メディア・コンテンツ事業」を立て直し、「不動産事業」を柱とするその他事業で収益アップを図る、というのが中期経営計画の骨子だと思うが、「メディア・コンテンツ事業」の凋落は続いている。不動産事業やその他の事業が収益源で新聞事業が赤字であれば、もはやメディア事業の会社とはいえないだろう。メディアの社会的な役割などを無視して、事業としてだけみれば、不動産屋が趣味で新聞を出しているのと同じことだ。
朝日離れの本質的な意味
「朝日離れ」とは何だろうか。朝日新聞は日本を代表するクオリティペーパーだった。エリートが読む新聞で、リベラル勢力のオピニオンリーダー的存在だった。よくも悪くも戦後リベラルの代表的な存在であり、自民党が支配する保守政権と対峙してきた。ところが時代とともに人々の認識が変わり始めた。読売新聞社と早稲田大学現代政治経済研究所の世論調査(2017年)によれば、保守とリベラルの政党観が世代によって変わってきているという。「朝日ぎらい」(著:橘玲)によれば、70代以上では最も保守的なのは自民党、次いで日本維新の会、公明党で、旧・民進党が中道、共産党がリベラルとされており、これはメディアが前提とする「保守」VS「リベラル」の構図と同じだ。ところが年齢が下がるとともに政党観が変化しており、18~29歳では最も保守的なのが公明党、次いで共産党、旧・民進党で、自民党は中道、最もリベラルなのが維新となっている。驚くべきことに今の若者は共産党を「右派」、維新を「左派」と見なしているというのだ。この左右逆転は50代と40代の間で起きている。橘氏は結論として、若者の安倍政権への支持が一貫して高いのは、若者が右傾化したのではなく、いつの時代も若者はリベラルで、より自分たちの主張に近い自民党・安倍政権を支持しているためだ、と結んでいる。「保守」VS「リベラル」の構図の逆転は衝撃的である。おそらく若者にとって安部首相は、憲法改正を進めようとしている改革者のイメージであり、護憲を掲げている左派勢力を、変化を好まない保守のイメージとして捉えているのだろう。
この理屈でいけば、朝日新聞は若者から見れば頑迷な「保守」勢力で、自分たちのためになる改革を阻む抵抗勢力となる。「新聞離れ」による若者層の読者減少は前述した通りだが、これに思想的な抵抗感が加わっていれば、若者層で朝日新聞を読んでいる人がほとんどいないのも当然、という印象になる。他紙よりも若者層の読者が少ないとなれば、今後の発行部数が、さらに落ち込んでいくことは自明である。
企業調査の観点から朝日新聞社グループを分析すれば、斜陽産業のなかにあるが、業界トップクラスの財務内容を維持する大企業だ。既得権を駆使して蓄えた資産は想像以上に大きい。一方で既得権に安住してきたツケが大企業病的な体質として表れており、内部から変革が起きる印象はない。サラリーマン的な体質が蔓延し、経営陣が打ち出す方針も、日本を代表するメディアの戦略としては物足りないものだ。まだまだ資産状況に余裕があることが改革を遅らせている印象もある。経営危機を煽りながら延命策を取っていけば、低レベルの経営戦略でも、自分たちは逃げ切ることができるからだ。
朝日新聞社は「新聞離れ」「朝日離れ」の現実と向き合う必要がある。今はまだ体力があるが、ボディブローのようにダメージが蓄積していることは間違いなく、このまま進んでいけば、いつか決壊する。「朝日離れ」が「新聞離れ」に加わることで、そのスピードが加速していく可能性も否定できない。時代の変遷とともに多くの大企業が消え去っていった。同社はその岐路に立たされているのだ。
(了)
【緒方 克美】<COMPANY INFORMATION>
代 表:渡辺 雅隆
所在地:東京都中央区築地5-3-2
設 立:1879年1月
資本金:6億5,000万円
売上高:(18/3連結)3,894億8,900万円法人名
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